作品タイトル不明
26「フラグかもじゃね?」
佐渡祐介は緊張していた。
彼が朝早くから訪れているのは、小梅の母リリスが経営する喫茶店『最初の妻』だ。
クラシックな雰囲気の店内は珈琲のいい香りがして、試験中はよく珈琲を飲んだことを思い出した。
パンツルックのリリスは、いかにもできる大人の女性という感じで、魔族と聞いても魔族らしくなく、人間だと言われた方が通じる。
そんなリリスが入れてくれた珈琲はとても美味しかった。
(離れた席に、無駄に後光を放っている誰かがいるけど、怖いからスルーしておこう)
後光を放っている人物は、間違いなく神かなにかだ。無駄に神々しい。
「さて、と。ごめんなさいね、朝早くから呼び出してしまって」
「いえ、美味しい珈琲をご馳走してもらって、ありがとうございます」
「あら、いい子ね。――佐渡祐介くん」
甘い声で名を呼ばれ、祐介の背筋に痺れが走った。
「あなたって、魔族や妖怪みたいな人外が好きなんですってね」
「は、はい。すみません」
「謝らなくていいの。こちら側を知る人こそ、人外に魅せられることが多いわ。男女問わずね」
「そういうものなんですね」
「プライベートに踏み込んでしまうけど、たくさん辛い思いをしたそうね。そんなあなたを癒してあげたいと思う子は意外にいるのよ」
ごくり、と祐介は唾を飲み込んだ。
「そ、そうなんですか?」
「サキュバスって、精気を吸うために身体を重ねると思われているけど、実際はキスだけでも精気は吸えるの。人間にも行為が好きな子がいるように、サキュバスもそういう子がいるだけの話なの」
「……な、なるほど」
「だからね、弱っている人を支えたい子もいるし、人間と恋をして暖かい家庭を築きたい子もいるの。私だけじゃなくて、他の魔族もサキュバスが幸せになれるようによい人がいたら紹介するようにしているの。夏樹くんから祐介くんのことを聞いて、いい子かもしれないと思っていたけど、実際に会ってみてきっと相性がいい子が見つかるって思うわ」
「よ、よろしくお願いします!」
祐介が期待を膨らませてお辞儀をした時、テーブルに置いてあるスマホが鳴った。
「あ、すみません」
「いいのよ。急ぎかもしれないから、確認して」
「ありがとうございます」
リリスの気遣いに感謝しながらスマホを見ると、九時過ぎの列車で京都に行くそうだ。
同行者は、千手と小梅だ。
メッセージには、駅で駅弁を何種類も買ってご満悦な小梅と、おそらく観光する気満々でスーツケースを持っている千手。そんなふたりに苦笑している夏樹が自撮りした写真が一緒だった。
「あの」
「なあに?」
「大変申し訳ないんですが、今日は帰らせていただいてもいいですか?」
「どうしたの?」
「大切な友達が戦いに行くんです。だからついて行きたいと思って」
「ふぅん」
リリスは祐介を値踏みするような目で見ると、悪戯めいた口調で言う。
「じゃあ、紹介はなかったことになってしまってもいい?」
「――構いません」
「あら」
祐介ははっきりと言って、席から立ち上がった。
「大切な友達が、いえ、親友がこれから戦おうとしているのに、僕が女の人を紹介してもらうなんて違います。ご不快を与えてしまい申し訳ありませんが、僕は奇跡的に出会えた家族のような親友たちのためなら、なんだってしてあげたいんです」
祐介は深々とお辞儀をすると、「珈琲ごちそうさまでした!」と行って、喫茶店から出て行く。
「……ちょっと意外だったわね。あの子は自分の欲望に正直なタイプだと思ったのだけど、ふうん」
ぺろり、とリリスが艶やかな唇を舐める。
「――年甲斐もなく男の子の真剣な眼差しにときめいちゃったわ。百年くらい妻になってあげたいくらい気に入っちゃったわ」
リリスは、祐介を気に入り妖艶に微笑んだ。
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そんなリリスを見ていたゴッドは、
「はわわわわわわわわわわわわわわわわわ」
これから巻き起こるであろうラブコメの予感に、身体を震わせるのだった。