作品タイトル不明
21「やっぱり京都に行こう! じゃね?」
叫んだ夏樹はそのままのノリで月読命に電話をかけた。
「な、夏樹くん! 今、素盞嗚尊がなっちゃんと親友記念日とか言って神界で気持ちの悪い踊りをしているんですが!?」
「ははははは。僕と素盞嗚尊くんは親友です!」
「ま、まさか」
「もうこれで俺を止める理由はありませんね! 京都に行ってきます! 八つ橋と七味とか買ってきますね!」
「……最近の子って、こんなに行動力ありましたっけ? 若い子って怖い」
ため息と共に月読からそのような言葉が漏れた。
「……教師としては後日お説教です」
「ごめんなさい!」
「ですが、神としては基本的にノータッチなのでとやかく言うつもりはありません。ですが、お願いをひとつだけ」
「はい?」
「京都破壊しないでくださいね」
「……月読先生は俺をなんだと思っているんですか!? まさか、俺が重要文化財を破壊するとでも!?」
「しないですよね?」
「月読先生。重要文化財っていうのは、破壊されてもみんなの心にあるんです」
「ちょ、破壊する気満々じゃないですか!」
「戦う場所を選ぶので平気ですって! 安倍さん家本家が更地になりたいそうなので、そこで思い切りバトルします!」
「……まあ、それならいいですけど」
安倍一門が聞いたら悲鳴をあげそうだが、月読は意外とすんなりよしとした。
「というか、こんな雑魚の鬼でも向島市に通さないでくださいよ! 犠牲になった人がいるみたいですけど」
「そこに関しては天照大神に文句を言ってください。いえ、冷たい言い方をしますが、神々はこんなもんです。素盞嗚尊のほうがよほど人間に近しく、面倒見もいいのですよ。私も教師として、人としてならばさておき、神として必要以上に人に手を差し伸べることはありません。申し訳ありませんが、決まりなのです」
「まあ、別に神様のお世話にばかりなっていても、仕方がないっすからね。そこは気にしないです」
人間と神々では考え方が違う。
人間同士でも国が違えば、文化や考えが違うのだから、その辺りにとやかく言うつもりはない。
夏樹は神の存在を知っているが、大半の人間は神の存在を知らないのだ。
知れば混乱が起きるだろうし、良からぬことを思う者もいる。
神と人は少しくらい距離があったほうがいいのだ。
「神の在り方についてはいつかお話しできればいいと思っています」
「うっす」
「しかし、君のことは気に入っているので、助言を」
「助言、ですか?」
「ええ、助言です。先ほど、金童子を倒したようですが、酒呑童子はもちろん、茨木童子も金童子など比べ物にならないほど強いですからね。両者は、半分神の領域に足を突っ込んでいますから――今の君では危うい」
「へえ」
「……いや、そこは興味を持ったり、やる気満々になったりするところじゃないのですからね。慎重になるべきところですからね? あれ? もしかして、私は余計なことを言っちゃいましたか!?」
慌てる月読の想像通りに、夏樹は唇を吊り上げて獰猛な笑みを浮かべていた。
京都の鬼には借りがある。
理由は不明であっても、一度は死にかけたらしいのだから、そのお礼をしなければならない。
「いい情報をありがとうございます。八つ橋に京都の鬼どもの首を添えてお土産にしますね」
「……そんな物騒なお土産はいりません。あ、あぶらとり紙を買ってきてください」
「普通ぅ!」
「いいじゃないですか! 好きなんですよ!」
月読の許可を得たので、夏樹は感謝を伝え電話を切った。
金童子の遺体を雷で焼き払うと、夏樹は背を向けて気を引き締める。
まだ大きな問題が残っているのだ。
それは、
「――お母さんをどうやって説得しようかな!?」
あまりにも大きすぎる問題だった。