軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20「来ちゃったんじゃね?」②

有名な鬼である酒呑童子と茨木童子に対し、金童子の記載はあまりない。

酒呑童子の配下であり、その力は鬼の中でも上位にいるということくらいしか夏樹は知らない。

茨木童子を含め、酒呑童子の子供のようだが、その辺りは気にする必要はない。

目の前に敵がいれば倒すだけ。

他のことは考えなくてもいいのだ。

とはいえ、鬼らしい鬼の存在に夏樹のテンションは上がっていた。

「俺は金童子! 酒呑童子の息子であり、京の鬼を束ねる一角である!」

「いらっしゃーい! 由良夏樹でーす。しーくーよーろー!」

赤い肉体を見せつけるように拳を掲げ、威圧するように名乗った金童子であるが、ネット検索してもあまり詳細が出てこないマイナーな鬼に怯えるような感性を夏樹は持ち合わせていない。

いや、目の前にいる鬼が酒呑童子であっても、怯えることはないだろう。

「お前の名前は京都にまで届いていたぞ」

「そりゃどうも。つーか、なんでえぐい角度のビキニパンツ履いてるの?」

「ああ、これか? この街に来る途中で腹が減ったから食った男が履いていたのでもらってやった」

「うわぁ、使用済みを装備しちゃうんだ」

「なにか問題でもあるのか? 弱者は強者に奪われる! 時代が変われど、鬼も人間も変わるまい!」

「そりゃそうだけど……知らない人のパンツを履きたくないなぁ」

金童子は、赤い肌を持つ赤鬼であり、髪も赤に近い色をしている。

逞しい肉体に、黒いビキニパンツが目立つので、つい鬼の顔よりも股間に目がいってしまう。

「んで、俺の名前が京都に届いたからってなんだっていうのだよ?」

「鬼は退屈でな。それほど強い人間がいるのなら、殺して食らおうと思ったのだ」

「食べちゃらめぇ!」

「力のある人間を食うと、鬼は力が上がる! わかるか? 酒呑童子も、茨木童子も多くの人間を食らったからこそ、強いのだ」

「あー、もしかして弱いのは人間食べてないせいだ、だからたくさん食べてつおくなるぞーってか? 野菜食えよ、馬鹿野郎!」

「違う! 俺は強い! 酒呑童子と茨木童子が強すぎるだけだ! そんなことはどうでもいい! 俺はもっと強くなりたい! 見ればわかる。お前からはもの凄い力を感じる。お前を食えば、俺は酒呑童子よりも強くなれること間違いないだろう!」

「……俺はプロテインかなんかかな?」

実につまらない理由で向島市を訪れた金童子に夏樹はがっかりした。

上がっていたテンションが下がっていくのがわかる。

「まあ、いいや。んで、殺し合いたいんだろう? いいぜ、来いよ!」

「ふははははは! 生意気な子供だ! だがそれがいい! 手足をちぎって、目の前で食らってやろう!」

金童子は高笑いしながら拳を放った。

空気が唸り、震える。

まるで車と車が衝突したような轟音が、向島市の空に響いた。

「痛い! あー、痛い! うわっ、ちょ、思ったよりも痛い! 雑魚とか思ってごめんね。あんた、異世界の四天王よりもちょっと強いわ。まじかー。さすが京都の鬼だなぁ! 最初から殺すつもりで一撃かぁ。うんうん。俺じゃなきゃ死んじゃうね。でもさ、それだけか」

夏樹の顔面に直撃した、鬼の拳は殺意がこもった良い一撃だった。

(目の前で手足を食うとか言うのなら、殺しちゃダメな気がするんだけど、まあ、鬼さんはちょっとお馬鹿さんってことで)

「ば、馬鹿な、俺の一撃は」

「あ、そういうのいいんで。えーい」

夏樹が平然としていることに驚愕している金童子だが、夏樹は彼の言葉を遮って太い右腕を握りつぶした。

「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああ!?」

肘から下がひしゃげた右腕を見て、金童子が絶叫をあげる。

大袈裟だな、とちょっと引いた。

手足をちぎると言っていた鬼が、なぜ腕が少しくらいひしゃげたくらいで叫ぶのか理解できなかった。

「なにしてんの。ほら、治しなよ。待っててあげるから」

「いてぇえ! いてえよぉ!」

「あれ?」

「くそっくそっくそっなんでなんでなんで! こんなことになってんだよ!?」

「もしかして、鬼さんって、再生能力とか、回復魔法とか使えないの? え、弱?」

泣き叫ぶ鬼にしらけた夏樹ではあるが、もしかしたら力を隠し持っている可能性があるので、膝をついて腕を押さえてうずくまる金童子のひしゃげた右腕を、付け根から引きちぎってみた。

「――――――――――――――――――――――――――」

言葉にならない絶叫が上がる。

だが、やはりそれだけだ。

強さを解放するとか、真の姿を見せるとかいう展開がない。

「がっかりだわぁ」

「た、たす――」

命乞いをしようとした金童子だったが、言葉を最後まで聞かずに首を引きちぎった。

「このくらいの鬼でも、普通の人間じゃ脅威だな。でも、俺には雑魚か。よし、決めた。――京都に行こう」

夏樹は身体能力を強化さえしていない。

雷神トールとの戦いで、全盛期の力を少しだけ取り戻したことで、膂力なども上がっている。それでも全盛期にほど遠い。だというのに、金童子は夏樹に手も足も出なかった。

最初の一撃でさえ、痛かっただけだ。直撃した顔面は唇を切ったが、それだけだった。

「明日になって、金童子は四天王の中でも最弱! とか言って他の鬼がきたら面倒臭いから、紳士の夏樹くんは自分から倒しにいくのである! たまには勇者らしく人助けでもしますか!」

夏樹はスマホを取り出すと、電話をかける。

相手はすぐにでた。

「へい、すさすさ!」

「おう、すさすさ! ねえねえ。俺たちって親友だよね?」

「――とぅくん」

「生まれた時から俺とすさすさは親友だ! 今度、みんなでご飯いこうぜ」

「……な、なっちゃん!?」

「いやー、すさすさみたいな親友がいて俺も嬉しいなぁ! 俺さ、これから京都行ってくるから、この街のこと少し任せていい?」

「もちろんだ! この素盞嗚尊! 親友のために力を手に入れたってネットにも書いてある!」

「ありがとう! よろしく!」

「あ、あの、俺たちが親友だって奥さんたちに言ってもいい?」

「もちろんさ! 今度ご挨拶させて! なんなら神界中に轟かせちゃって!」

「かしこまりましたー!」

通話を切ると、夏樹は高笑いした。

「ふはははははははは! 月読先生、俺のほうが一枚上手だったようですね! すさすさと親友になることで、街は平和! 俺ももう怖いものがないから京都に行ける! 異世界の勇者は、知力でも戦えるんですよぉおおおおおおおおおおお!」