作品タイトル不明
19「来ちゃったんじゃね?」①
「はぁぁぁぁぁ。なんていうか、休日なのに疲れた。京都で大暴れした方が早かった気もするし、なんだかなぁ」
水無月家を後にした夏樹は、ひとり海にいた。
向島港に隣接する砂浜で、釣り人を眺めながら炭酸水を飲んでいる。
「異世界はクソだったけど、だから気なんて使わないし、みんなぶっ殺してぶっ壊したんだけど、地球じゃそんなことできないしなぁ」
全盛期の夏樹が本気で暴れたら、兵器と同等かそれ以上の破壊ができるだろう。
映画に出てくるヒーローなど目じゃないほど力だってある。
「京都に関しても俺が何かする前に、しののんが何か企んでいる感じだしなぁ」
安倍東雲は京都に来るなと言った。
彼の言葉、夏樹たちのことを案じたものであることはわかっている。同時に、彼には彼の目的と手段があるのだということがなんとなくわかっていた。
飄々としている東雲ではあったが、確固たる意志が間違いなく彼の中にあった。
「あまりしののんの邪魔はしたくないけど、円くんとは話をしたほうがいいだろうし……ああ、悩む! いっそ京都から鬼が俺のところに来て――お前、安倍家と通じてるな。じゃまだから殺してやるよ! とかいう展開になったら俺も、そうだ、京都に行くでやすーってなるのに! はい、もしもし!?」
苛立つ夏樹のスマホが震える。
ディスプレイも見ずに着信に応じると、相手は先ほどまで会っていた東雲だった。
「あ、さっきぶり。なになに? 忘れ物でもした?」
「忘れ物はしとらんけど、強硬派の奴らを数人シメて情報を得たんやけど、夏樹くんどこにおるん?」
「え? 海でぼーっとしてるけど」
「それはあかんて。君が強いんはようわかっとるけど、他の子らと一緒に居った方がええ」
「なんで?」
「強硬派の馬鹿ども曰く、なんでも強硬派の中に内通者がおるらしい。んでもって、君の情報がバレとる。んでもって、今――京都から金童子が消えとる」
「つまり、酒呑童子に仕える四天王の最弱が俺のところに来るってわけだ」
「そうや。すでにいる可能性がある。君も知っとると思うんやけど、神様っていうんは、基本的に人間に関わらん。世界が壊れん程度の最低限のことしかせえへん。しかも、神様視点での話やから、人間にとって世界の終わりでも神様にとっては違う場合だってあるんや」
「みたいだね」
人間に神が積極的に関わろうとしないのは他ならぬ神である月読命から聞いている。
「せやから」
「残念だけど、もう遅いかなぁ」
夏樹は唇を獰猛に吊り上げた。
「――まさか」
「忠告も心配もありがたいけど、俺ってさ、鬼程度怖くないんだよ」
「ちょい、待ち」
「むしろ――鬼が俺を怖がるべきだ。なんたって、勇者なんだからさ」
なにかを言っている東雲の声を無視して通話を切ると、夏樹は背後を振り返った。
そこには、二メートルを優に越す体躯を持った赤い鬼がいた。
「おいおい、虎柄のパンツ履いてないじゃん。頭アフロでもないじゃん! 詐欺だろ、これ? 鬼って虎柄の腰布巻いて、棍棒持ってぐはははははって笑うんじゃないの? 人様に迷惑かけることしかできない役立たずが、一丁前にエグい角度のビキニパンツ履いてるんじゃねえよ!」