作品タイトル不明
16「円の様子がへんじゃね?」
安倍円は、苛立った様子でマンションの部屋のリビングで足を組んで空を睨んでいた。
「おいおい、円。たまには一緒に筋トレしようぜ」
「……うっさい。ボクは熊んみたいにムキムキになりたくないんや」
「霊能力者でも身体は資本だぞ?」
「鍛えても股間蹴られて一発やったやない」
「ふっ。甘いな、俺はすでに股間を鍛えている」
「……この熊、めっちゃ阿呆や。どうやって股間を鍛えるねん」
「金属バットで」
「……痛いやろ?」
「一発で悶絶でした。女の子になるところでした」
「阿呆や!」
金属バットでどう鍛えようとしたのか不明であるし、想像もしたくないが、同じ男として円は内股になってしまった。
「にしても、クソ兄貴ども……どいつもこいつも家に帰ってこないやないか!」
長男東雲が茨木童子と通じていることは、円は他言していなかった。
東雲にも立場がある。
下手をすれば、強硬派から敵と見なされて襲われる可能性だってあった。
同じ人間に兄がどうこうされるとは思わないが、京都の霊能力者たちが本格的に仲違いしてしまえば面倒臭いことになる。
(鬼を一掃するのはええんやけど、まずは酒呑童子や。酒呑童子を殺して、あの子の恨みを晴らして……そのためなら、過激派霊能力者が馬鹿なことをしてくれればそれでええ。酒呑童子を殺すためなら、雑魚どもが犠牲になったって問題ないんよ。だって、君らもそれが本望やろ?)
ふ、と自分の思考に驚いてしまう。
(……それはあかんやろ。なんで、こんなことを考えとるん? なっちゃんを失ってあんな悲しい思いをしたんに、なんで犠牲が仕方がないなんて思えるんや?)
頭が痛い。
「おい、円? どうした、顔色が悪いぞ?」
(そもそもなんで……あかん、考えたらあかん、待て、なんで考えたらあかんのや? ええいっ、しっかりしいや!)
思考が纏まらない。
喉が渇き、水を求めて立ち上がると、力なくその場に崩れ落ちた。
「おい! 円! おい!?」
「なあ、熊」
「ど、どうした?」
「どないしてボクは――酒呑童子を殺そうなんて考えているんやろう?」
「円!? おい、しっかりしろ。鼻血が、おい? おかん! おかん! きてくれ!」
熊崎の慌てる声をどこか遠くに感じながら、薄れゆく意識の中で円は考える。
(なっちゃんを殺した鬼は酒呑童子やない。そりゃ、鬼のトップは酒呑童子や。せやけど、ボクが殺したいんは酒呑童子やない。なっちゃんを殺した鬼や。……なのに、なんで?)
■
向島市から帰ってきた東雲を迎えたのは、ベッドの上で眠る弟円だった。
「――思ったよりも影響が大きいようやね」
熊崎は円の姿を他の家族に見せないように気を遣ってくれていた。
きららと音叉は円を可愛がっているので、こんな姿を見たら大騒ぎをするだろう。
「もう少しのんびり事を進めるつもりやったけど、そろそろ鬼を潰そうか」