作品タイトル不明
10「温泉できゃっきゃうふふじゃね?」③
「ほう。随分とがっつり抉られとるのう。もう少し深ければ、骨ごと持ってかれとったな」
音叉の背中を見て、小梅が唇を吊り上げた。
対し、銀子や澪、都は顔をしかめている。
妹のきららに至っては、お湯で顔を洗うことで隠しているが涙ぐんでいた。
「がっつりやられちまったぜ。いい勝負しているって思っていたんだけどよ、俺の方が弱かったってことだ」
「……おどれはカラッとしとるのー。弟の件がある癖に、なんというか、そっちのあべ子みたいなどんよりしたのがないのー」
「あはははは。そりゃ、仕方がねえさ。俺は弟の円は可愛いが、難しいことは考えられねえ。円だって強くなった。自分で敵の鬼を見つけてぶっ殺すさ!」
姉として弟の心配をしているようだが、親友を殺されたツケは円自身が払わせるのだろうと信じているようだ。
だが、音叉に対し、きららは違うようだ。
「ふざけないで、音叉! 私たちの可愛い円が、鬼に単身で挑んで殺されたらどうするの!?」
「だから、きららは過保護すぎるんだよ! 霊能力者なんてやってれば、遅かれ早かれ死ぬか、大怪我するかなんて決まってるじゃねえか」
「だからこそ、円が傷つかないようにするのが姉の役目でしょう!」
「円は望んでねえぞ」
「復讐に囚われている子の話を真に受けないでちょうだい! 円に危険が及ばないように、興味のない強硬派に所属して、幹部を魅了して都合よく操っていたのに!」
ようやく安倍姉妹の行動理由がわかってきた。
「あべ美に対して、あべ子さんは過保護っすねぇ」
「お前まで……あべ子って言わないでよ!」
「まあまあ、いいじゃないっすか。鼻フックさんなんて呼ばれたくないっすよね?」
「あべ子か鼻フックの二択しかないのがおかしいのよ! 素直にきららちゃんって呼べよ!」
「うわ、きららちゃんて」
「……痛々しいのう」
銀子と小梅が「うわぁ」という目を向ける。水無月姉妹もうんうんと頷いていた。
「悪いな、きららはちょっとお年頃なんだ」
「あー」
一同は納得する。
ゴスロリファッションに身を包んだ趣味をとやかくいうつもりはないが、「お年頃」と言われるとなんとなく察してしまう。
「なによ、その顔!」
「……おどれは、あれじゃろ。意味もなく腕に包帯巻いたりしておるじゃろ」
「――っ、ななななな、なんのこと!?」
「動揺せんでもええんじゃよ。俺様の親父も、若い頃に翼を黒く塗って堕天使とか舐めたこと言っとったからのう」
「……え? サタンさんの翼って塗ったんすか!?」
驚愕の事実に、銀子が目を丸くする。
言動はさておき、見た目だけならハリウッド俳優顔負けのイケオジなのに、純白の翼を染めていたとは思わなかったのだ。
だが、「らしい」といえば「らしい」と思ってしまう。
「サタンとかそんなのどうでもいいのよ!? 私たちが向島市に来たのも、由良夏樹というプリンスが強いと兄が言ったからよ!」
「いや、プリンスはおらんからな」
「プリンセスだと私じゃない!」
「そういう話をしとるんじゃないんじゃが! この女は会話をすればするほど痛々しいのう!」
「うっさい! というか、向島市はなんなのよ! 天照大神を語る妖怪がいるし、あんただって神の部類でしょう? そっちの青山銀子は院じゃ有名な破天荒女じゃない!」
「まーだ、私のこと天照大神だと認めてないんすか!?」
「音叉は脳筋だから懐柔されたかもしれないけど、いくらプリンス夏樹様と懇意にしているからって太陽神を騙るのは許せないわ!」
天照大神ときららが「ぎゃーぎゃー」言いながら掴み合うのを眺めて、銀子はどうするべきか悩む。
円の話をもっと詳しく聞いてもいいが、夏樹のいないところで勝手なことをするのも躊躇われた。
「さあて、どうするかのう」
小梅が腕を組んだ時だった。
「もう限界っ、熱いぃいいいいいいいいいいいい!」
少し離れたサウナから夏樹の叫び声が聞こえた。
なんじゃ、とお湯から上がった小梅は、つぅ、と鼻血を垂らして振り返った。
「男どもが全裸でサウナから飛び出しておるんじゃが!?」
「なんだとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
女子たちは、湯船から飛び出し、それぞれの目当ての異性の肉体を拝むべくダッシュした。
「きゃーっ、えっちー!」
と、男子たちが叫んだのはいうまでもない。
■
湯船に残っていた都と澪は、はぁ、と大きくため息をついた。
「まさかとは思うけど、このためのスク水着用じゃないですよね?」
「さ、さあ」
澪も夏樹の裸体に興味があるが、小梅たちのように明け透けにはできずに顔を赤らめていた。
都は彼らに全く興味はなかった。
■
義政少年は、バスタオルを肩にかけると、悠々とした足取りでサウナから出ると、夏樹たちを見下ろし、ふっ、と笑う。
「まだまだですね」