作品タイトル不明
7「サウナできゃっきゃうふふじゃね?」
「あれまあ、送り出した姉妹が手籠にされていた件……とか言えば、いいんですかねぇ」
「人聞きの悪いこと言わないで!」
「誰が手篭めだ!」
京都から向島市の水無月家を訪ねてきた安倍東雲と由良夏樹たちは、水無月家のサウナにいた。
みんなが全裸でタオル一枚というスタイルである。
もちろん、女性陣はいない。女性たちは、温泉の方に入っている。
「いやぁ、自分もまさか妹たちが京都を飛び出して向島に来てたんは驚きましたけど、由良くんと七森くんにほの字になってまうとは……これやから人生っていうのは不思議やねぇ」
東雲は線の細い青年というイメージだったが、裸になると無駄なく引き締まった肉体をしていた。
それは千手、征四郎も同じだ。やはり霊能力者は身体が資本なのだろう。
次に引き締まっているのは夏樹だった。だが、あくまでも中学生として、の範疇だ。毎日がっつり運動をしている少年たちのほうが引き締まっているだろう。
祐介は中肉中背で、一登は細身だ。義政少年は五歳なので、まだ全体的に小柄だ。
「そういうのいいんで」
「右に同じだ」
「そら残念やわ。妹たちと良い仲になってくれるんなら、安倍家と……ちゃうな。自分らと良い関係になってくれるかと思ったんやけど」
「安倍家でなくていいの?」
夏樹が尋ねると、東雲は肩をすくめてから頷いた。
「そうやね。僕は一応、安倍家の次期当主ってことになっとるけど、継ぐ気はないかなぁ。老害どもが邪魔やから、昔っから酷い目に遭ってたんやで。ま、それなりに力がついた自分が父親どもを叩き潰したから、向こうさん方はビビってなにも言うてこんから好きにさせてもろうとるけど」
「……どうして霊能力者のお家事情って聞いてて暗くなる話ばかりなのかな!?」
「僕の両親もクズなせいで神奈家に迷惑かけてばかりですからねぇ」
「こら、義政。あまりそういうことは言っちゃ駄目だぞ」
「はーい」
征四郎と義政のやりとりはさておくとして、夏樹はどうするべきか悩んだ。
安倍家を潰そうにも、安倍東雲はそれを困る感じではない。
それは「面白くない」のだ。
突っかかって来た奴を「ざまぁ」せず、何が異世界の勇者か。
「あの、安倍さん」
「東雲でええよ、三原一登くん」
「……やっぱり僕のことをご存知なんですね」
「ああ、その辺りはまだ妹たちから聞いてないんやね。じゃ、少し説明しよか」
一登は霊能関係者に自分の名前が知られていることが疑問だった。
片足を突っ込み、夏樹と共にいろいろ巻き込まれているが、京都の人たちにまで名前が知られているとそれはそれで驚きらしい。
「あ、それは俺も疑問だった」
夏樹も同じだ。
いくら情報社会とは言え、自分たちの素性が知られるのが早すぎる。
「情報屋っていうのはマジでおるんよ。人間だけでなく、妖怪にも、神様にも、魔族にも、や。情報の売買で生活しとる子たちもおるんで、早さと正確性っていうのは大事なんよ。特に、由良夏樹君やなぁ」
「俺かよ」
「そりゃそうや。水無月のみずちは土地神としてそれなりに知られとるからね。そのみずちが死んだとなれば、情報屋が探るのはしゃーない」
「しゃーないのかぁ。それで、しのののののののにまで情報が漏れたと」
「せやねぇ。まあ、あとは、院にも情報を流すバカはおるし、神さんや魔族さんもおしゃべりはおるからね。そんなこんなで君が神をも殺せる力を持っとるんまでは知っとる」
せやけど、と東雲は品定めするような目で夏樹を見た。
いや、興味深いと言うべきか。
「三原一登くんは普通の子や。少々、普通ではないみたいやけど、今はまだ普通の子やね。でも、由良夏樹君……君は何もんかな?」
「勇者ですけど?」
「ははははは。それはええね。勇ましい者であるのなら、そうなんやろうけど」
数日前まで、勇者を隠そうとしていた夏樹だが、今はその気すらない。
言っても信じない奴は信じないだろうし、変に勘繰られるよりも簡単で良い。
一応は、言う相手は選んでいる。
ただ、あまり公言するなと釘を刺してくれていた千手は、「また言いやがった」と天を仰いでいる。
「え? 七森千手くんの反応ってどういう意味? もしかして、マジなん?」
「マジよ、まじまじ。異世界で勇者やってましたー! その勇者の力使って安倍さんたち一族郎党皆殺しだからよーろーしーくー」
「……怖い子やなぁ。異世界はさておき、殺る気満々やん」
「俺は異世界で学んだんだよ。人間はクソ、助ける価値もない、生きている価値もないってね」
「異世界って夢と希望が詰まっとるんやないの?」
「絶望と絶望と絶望しかねーよ!」
「……異世界ラノベみたいにはいかんのやねぇ」
夏樹の異世界に対する感想に、東雲だけではなく、千手と征四郎、一登も改めて落胆を隠せない。
同じく異世界で酷い目にあった祐介は「うんうん」と強く頷いている。
そして、義政少年が「人間なんて良くも悪くも醜い生き物なんですよ」と五歳児らしからぬことを言っていた。
「個人的には異世界よりも、せーめーさんの子孫のほうがラノベ感あって羨ましいなぁ」
「それ、みんな言うでー。せやけど、術もなんも喪失しとるから、ただ子孫ってだけなんよ。個人的には、せーめーさんの子孫だけど異世界で無双してみた、としたかったなぁ」
「それいいっ。とてもいいっ!」
東雲のこっそりとした夢は夏樹の琴線に触れたようだ。
「自分的には、夏樹くんの話をもっと聞きたいし、自分の謝罪で今回の件は許して欲しいんやけどなぁ」
「今後、こっちに迷惑かけないなら考えてやっても良いよ。個人的に、あんたは胡散臭いけど、嫌いじゃないからさ」
「そりゃ嬉し。じゃあ、今回は申し訳ございませんでした。なんなら、後で土下座でもなんでもするし、妹たちにも謝罪させるんで、勘弁してください」
「いいよぉー」
素直に謝罪した東雲に対し、夏樹は良しと。
東雲がこちらを探っていたように、夏樹も彼を探っていたのだが、底が見えない。
人間でここまで興味を持ったのは初めてだ。
顔をあげた東雲と夏樹が握手を交わすと、
「はい、じゃあ、今から熱風送りますね!」
義政少年がおっきいバスタオルをばっさばっさし始めて、サウナの中はとんでもないことになった。