作品タイトル不明
6「まさかのフラグじゃね?」
「ちょ、このおばさん! 王子様の前で鼻フックするとか、常識がないどころか、非人道的じゃなくて!?」
「鼻を千切らんかったことに感謝してほしいくらいじゃ。あと、こんな美女捕まえておばさん呼ばわりじゃと? おどれはよほど死にたいようじゃな?」
「はぁ!? 十代のこっちからしたらあんたたちなんて十分すぎるほどおばさんなんですけど!」
きららの言葉に、銀子と天照大神が胸を押さえてその場に膝をついた。
千手と祐介、征四郎も「じゃあ俺たちはおじさんか」と凹んでいる。
義政少年だけが、「僕からしたら由良さんと三原さん、水無月姉妹さん以外はおじさんおばさんですけどね」と眼鏡をくいくいしていた。
「そもそもおどれは敵サイドじゃろうが! なーに、魅了しようとして魅了されとるんじゃ! このボケ!」
「魅了の効かない男性なんて初めてなの! 私の初めてを奪ったんだから、もう王子様決定よ!」
「言い方が悪すぎるじゃろう!」
ぐぬぬ、と額をぶつけて睨み合っている小梅ときらら。
きららは小梅にも魅了が効いていないことに気づいていない。
「はははははっ、スキありだぜぇ!」
小梅ときららのやりとりを一同が眺めていると、安倍音叉が縄を引きちぎって拳を握った。
「いや、隙なんてねーよ!」
音叉がまず狙ったのは夏樹だった。
拳を握りしめ、霊力をこれでもかと乗せた一撃を放った。
「あ、そういえば、普通の縄で縛ってたの忘れていました」
拳が夏樹の顔を目掛けて真っ直ぐに向かう。
一般人であれば、直撃すれば地面に叩きつけられたトマトのようになるだろう。
だが、相手が悪かった。
そもそも夏樹に隙などないし、彼女の拳より魔剣を抜く方が早い。
「いやいや、待って。俺らの大将を簡単に殴らせるはずがねえだろ」
しかし、夏樹よりも早く対応していた千手が音叉の拳を掴むとそのまま器用に床に倒し、押さえ込んだ。
「……あらら」
「由良……なんでも斬ればいいってもんじゃないからな! この女はさておき、水無月家のジムまでぶった斬ってどうするんだ! 俺はサウナも温泉もまだ入ってないんだぞ!」
「あ! そうだった! それは申し訳ない。攻撃されるとつい斬りたくなる病があって」
「切り裂きジャックでももう少しマシな理由を考えるだろ!」
千手が夏樹よりも早く音叉を取り押さえた理由も大概だったが、水無月家の面々は設置したてのジムが夏樹の手によって破壊されなかったことにあからさまにホッとしていた。
「こ、この俺がこんな簡単に取り押さえられただと……――とぅくん」
「おい、由良ぁ! この姉妹面倒臭えぞ! やっぱり斬り捨てちまえ!」
喧嘩をしている小梅ときらら。
床に手をついて凹んでいる銀子と天照大神。
頬を赤らめている音叉と、彼女を取り押さえる千手。
「――どうするのこれ?」
夏樹が、祐介と征四郎、水無月家の面々に問いかけると、一同は首を傾げた。
「やれやれですね」
義政少年だけが、肩をすくめる。
そんな時、
「由良殿! 京都から安倍家の次期当主安倍東雲が来られました!」
この場にいなかった、水無月星雲相談役が慌てた顔をして走ってきた。
一同が動きを止める。
「――揉め事にならないことを期待しましょう」
義政少年の言葉に、一同は緊張しながら頷いた。