作品タイトル不明
5「お兄ちゃんが来るんじゃね?」
京都にて。
カップル動画配信者になり損ねたしののんこと安倍東雲は、妹の音叉ときららがいないことに気づき、頭を痛めていた。
「まさかとは思うんけど、向島に行ったんやないやろうね。あの子たちやと、由良夏樹君には敵わんやろうね。と、いうか、普通に死ぬやろ」
最近、食事の席に家族が揃わないことが当たり前になってきて寂しく思う東雲だったが、夕食前に食べるか食べないかの連絡くらいはある。
それが、音叉ときららが揃ってなにも連絡してこないのであれば、心配になってしまう。
京都では、鬼に襲われたなどしない限り、遅れを取ることはないだろう。同じ人間であれば、安倍五兄妹は上から数えて五指に入る霊能力者なのだ。
無論、京都外の霊能力者や、力を隠し持っている霊能力者もいるだろうが、早々に遅れを取ることはしない。
「……あの子たちが『おいた』をしよることは知っとったけど、想像よりもはやかったなぁ。お兄ちゃんもびっくりや」
妹たちが、京都の鬼や妖怪全てを駆逐しようと企む、俗に言う『強硬派』と繋がっていることは把握している。
その行動理由も理解してもいた。
東雲の考えとは少々違う行動を起こしている妹たちだが、問題はない。東雲は東雲の目的のために、どんなことでもすると決めている。
「……しかし、由良夏樹君も過激な子やから、あまり刺激せんでほしいんやけどなぁ」
すでに由良夏樹に関する情報を手に入れている。
東雲には、神族魔族の情報筋がある。
下級の神や魔族ではあるが、情報を得るだけであれば問題ない。
なにより、仮に敵対しても倒せるくらいの相手の方が情報収集で利用するにはちょうどよかった。
「神さんと喧嘩するとか頭おかしいやろ。七つの大罪のマモンとか僕でも知っとるで。素盞嗚尊と殺し合ったとか……普通の中学三年生がせんやろう」
呆れもするが、感心もする。
神や魔と戦うなど『そんな面倒臭いこと』をよくできると思う。
東雲は真似などしない。
彼も、頭のネジが外れているなどと言われることはあるが、夏樹ほどではない。
神や魔が恐ろしいわけではないが、そもそも戦う理由がないのだ。
「院の奴らから手に入れた話やと、天照大神様が向島市の土地神て赴任しとると聞くし……あかん。話を聞いても理解できへんかったけど、口にしたらしたでもっと理解できんわ。なんやねん、太陽神が土地神って。ランク下がっとるんやない?」
向島市は京都よりも魑魅魍魎に溢れているらしい。
「強硬派の考えもわからんわけやないんや。奴らは身内を殺されとるからね。音叉ときららが利用するって言いながら、協力しとるんも、同情からやろうし、円のことを思ってやろうからなぁ。お兄ちゃん的にはあまり怒れへんわ」
だが、すでに妹たちが動いてしまった以上、兄として動かないわけにはいかない。
「現状で動くんには少しだけ、ほんの少しだけ早かったんけど、まあええか。なるようになるやろ」
東雲は身支度を整えると、近所の顔見知りの店に立ち寄って手土産を購入する。
「由良夏樹君は京都のお菓子が好きやったから、他にも買ってったろ」
気を利かせて夏樹のために余分に菓子を買った。
手提げ袋に入れて、よし、と頷くと、東雲は軽く指を鳴らす。
「――おいでや、朱雀」
「――こけぇえええええええええええええええ!」
「……毎回思うんけど、朱雀がこけぇて鳴き方ええんかねぇ」
「こけぇええええええええええええええええ!」
「ま、まあ、君がええならええんやけど。ほな、向島市に飛んでこ」
東雲のお願いに、朱雀は応じて炎の翼を広げると、彼を包んで飛んだ。