作品タイトル不明
3「魅了が効くわけがなくね?」①
「はーい、こんにちはー。なんやかんやあってなんやかんやあったので酒呑童子ごと安倍家を潰すことに決めた由良夏樹君でーす」
拘束はそのままに猿轡を外した、安倍家の霊能力者に夏樹が名乗る。
ベリーショートカットの少女は夏樹を睨んでいるが、青く染めた髪の少女はなぜか目を隠しているので、その布をどうしようか悩んでいると、背後から千手が待ったをかけた。
「その布は魔眼を封じる特別性の布だ。おそらく俺と同じか、面倒臭い目を持っているはずだから取らないほうがいい。向こうさんからは見えているはずだから問題ないさ」
「なるほど。じゃあ、このままで」
夏樹が納得すると、わかりやすく舌打ちされたので、なにかとっておきだったのかもしれない。
「えっと、安倍あべ子さんとあべ美さんでしたよね。どちらが長女でどちらが次女かわかりませんけど……俺と一登を狙ったのが運の尽きということで、ちゃんと殺しますね」
「てめぇ! 自称天照大神とかふざけた妖怪使いやがって。男なら拳で勝負しろや!」
「……自称って言われていますけど」
「…………悲しいんですが、信じてくれないんです」
「こんなビール腹の天照大神がいるわけねえだろ! このボケ! 嘘でももっとマシな嘘つけよ!」
天照大神はしくしくと泣き始めて、腹筋トレーニングを始めた。
夏樹たちはそんな太陽神にどう声をかけようかと悩み、あきらめてそっとしておくことにした。
「まあ、天照大神さんはいいとして、俺の情報と一登の情報をどこで手に入れたのか教えてもらえますか?」
「……見返りはあるんだろうな」
「苦しまないで殺してあげます」
「それって見返りか?」
「違うんですか?」
「ちげーよ! もっとあるだろ! せめてガチで勝負するとかさ!」
「それって結局死ぬけど?」
「なんだとてめぇ、俺に勝つつもりか? ああ?」
背後で「俺っ子ボーイッシュ女子。妄想が捗るっすねぇ。夏樹くんがわからせるっすね。わかります」とぐへへ、といろいろ脳内で楽しんでいる銀子の声が聞こえたが無視した。
「いいですよ。じゃあ、喧嘩しましょうか。ただ、その前にちゃんと情報提供はしてくださいね」
「いいぜ」
「ちょっと音叉! 勝手なことしないでよ!」
「うるせえ、きらら! いくら東雲兄貴レベルだって言っても、戦いようによっちゃ勝てるだろう! つーか、今が絶好のチャンスだろ、使えよ!」
口喧嘩をしたと思えば、音叉と呼ばれたベリーショートカットの少女が、青髪の少女に向かい口を開けた。
なにをするのかつい眺めていると、音叉はきららと呼ばれた少女の目を覆う布を口で剥ぎ取った。
――真っ赤な瞳と夏樹の目が合った。
「私と目が合ったわね。これで私の勝ちよ!」
きららの赤い瞳が、光った。
「――私に魅了されなさい」
目を合わせていた夏樹は、彼女から霊力が流れてくることがわかった。
目から脳へ、無理やり彼女を好きになるような命令が流れていく。
(ふうん。感覚的には異世界のサキュバスみたいな感じか。問答無用で物理的にどうこうするわけじゃないんだなぁ)
「――無理っす」
「え?」
まったく魅了されていない夏樹が短く応えると、安倍きららは間の抜けた声を出した。
「だよなぁ」
夏樹の背後では、かつて魔眼を使ったのになにも意味がなかったことを思い出していた千手が頷いていた。