作品タイトル不明
1「まだ京都の方がいたんじゃね?」①
もう何度も足を運び、勝手知ったる人の家となった水無月家。
雲海と澪、都、星雲が出迎えてくれているが、お互いに挨拶を交わし、談笑混じりで家の中に通される。
水無月家の使用人たちも「こんにちはー」と軽く挨拶ができるほど顔見知りだ。
「まさか俺がこうやって水無月家に歓迎されて招かれるとは思わなかったな」
「まったくだ」
七森千手と、偶然向島市に来ていた神奈征四郎が複雑な表情を浮かべている。
「なんで?」
疑問に思った夏樹が反射的に尋ねてみると、征四郎の甥っ子である神奈義政が眼鏡をくいくいしながら教えてくれた。
「土地神みずち様を祀る水無月家は、院に所属する旧家の中でも力がある一族です。対して、神奈家、七森家も同じく旧家ですが、ここ何代かの当主が愚か者だったため権力に固執していました。対して水無月家はあくまでも地域に根付き民を守ることを続けています。どちらが周囲からよく思われるのかは誰でもわかります。だが、わからないのが愚か者です。醜い嫉妬心を抱き、水無月家に対しておかしな対抗心を持っていたのです」
「……このボーイはどこのボーイかな? というか本当にボーイかな?」
「あー、俺の甥っ子だ。弟の息子だ。前に少し話しただろう?」
「あー、そういえば」
「神奈義政、五歳です。愚か者の父と、浮気者の母の間に生まれた子供ですが、征四郎おじさんのおかげで神奈家に籍を置くことが許されています。この度は、家にいてばかりでは息が詰まるだろうと、おじさんに連れてきてもらいました」
夏樹は、眼鏡をくいくいしながら流暢に大人事情を話していく義政少年に問わずにいられなかった。
「……あの、中身はどなたですか?」
「中身とは?」
「転生者さんですよね?」
「夏樹くん、さすがにそれはないんじゃ」
夏樹の問いかけに、一登が突っ込む。だが、一登も義政少年にはちょっと驚いているようだ。
「僕……転生とかむずかしいことはわかりません」
「急に五歳児みたいになったけど、今まで成人した方とお会いしている感じだったよ!?」
「僕、喉乾いちゃったなぁ」
「急に子供らしい要求を!?」
義政少年に疑惑の目を向ける夏樹の肩を、千手と征四郎が軽く叩いた。
「……気持ちはわかるんだが、まあ、一応子供ってことで」
「一応!?」
「あのふたりを反面教師にしたのだろう。将来の夢は動画配信者になることらしい。微笑ましいじゃないか」
「……征四郎さん。個人的に、その夢は後でちゃんと変えさせておこうね」
なんてことを話しながら、いつもの天照大神の部屋ではなく、応接間でもなく、屋敷の奥に通された。
「この辺って、夏樹がぶった斬った場所じゃろう。もう修繕しとったんか。ジャパニーズ職人の仕事は早いんじゃなぁ」
「早すぎるっすけどね」
そして、一同が通されたのは――ジムだった。
「うわぁ、本当にジムがある! あとサウナもある! おいおい、裏には温泉もあるじゃん! なにここ!?」
夏樹がキラキラと瞳を輝かせていると、スポーツウェアを身につけた天照大神が顔を出した。
「いやー、すみません。わざわざ皆さんできていただいたのに、こんな格好で。自分、立派な土地神になるために身体作りしているもんで」
「……土地神が身体鍛えてどうするんじゃ。素直に無駄肉のついた腹を引っ込めるために頑張ってますって言えや!」
「ちょ、一登きゅんの前でそんなことを言わないでくださいよ! 自分のイメージが!」
ぎゃーぎゃー騒ぎ始めた天照大神と、そんな彼女を鬱陶しそうにあしらう小梅からそっと目を逸らし、夏樹は一番気になっていたことを尋ねた。
「ところで、ジムの端っこでグレーのスウェット上下装備して手足を縛られているのはどちら様ですか?」
雲海、澪、都に問うと三人は気まずそうな顔をした。
そして代表して雲海が答えた。
「こやつらは京都の安倍家の者です」
「なんだとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」