作品タイトル不明
プロローグ「京都に行きたいんじゃね?」
「僕の名前は由良夏樹。過酷な異世界から二週間前に帰還したぴちっぴちの十五歳。地球にもファンタジーが溢れているってびっくりしたけど、毎日のようにイベントイベントでもうたくさん! そんなある日、京都からよくわかんない刺客が! ――とぅくん! え? これが殺意!?」
「……なーにくだらんことを言うとるんじゃお前は」
由良夏樹は、簀巻きになった状態で茶の間に転がされていた。
そんな彼の傍らには、ショルダーバッグとベースボールキャップがそっと置かれている。
服装も学生服ではなく、グレーのスウェットパンツと白いロンTと黒のパーカー姿だ。玄関には買ったばかりなのにだいぶくたびれてしまったハイカットのスニーカーがある。
――京都に行くのが誰にでもわかった。
「学校に行けよ、と突っ込まれたけど、今日は日曜日でしたー! というわけで、京都京都京都京都京都! 酒呑童子も安倍家も全部ぶっ殺すんだー! こーろーすーのー!」
「だーめーじゃー! おどれが京都で暴れたら重要文化財を破壊する未来しか見えん。水無月家のお山さんや、ジャックの宇宙船の被害を忘れたんか!」
「……重要文化財はね、壊れてもみんなの心にあり続けるんだよ」
「せめて嘘でも壊しませんと言わんかい!」
「俺は嘘は吐きたくないんだ。だから堂々と京都行くし、学校もサボる。京都だって躊躇わずに破壊する。きりっ」
「――とぅくん」
迷いのない澄んだ瞳をしてはっきりと言い切る夏樹に、不覚にも小梅がときめいてしまった。
「いやいやいやいや! 夏樹くんも自分できりっとか言わなくてもいいんで。小梅さんもいちいち口に出してとぅくんとか言わなくてもいいっすから! って、私にツッコましてどうするんっすか! 逆でしょうに!」
「ごめんなさい」
「すまんすまん。ついのう」
「おふたりに同時にボケられたら、銀子ちゃんツッコミが大変なんで勘弁してくださいっすよ!」
夏樹はエビフライのようになった状態で器用にむくりと起き上がる。
月読に「学校に来なさい」と言われ、家族も明日学校に行けと言ったが、実は今日は日曜日だった。
夏樹自身も学校をサボってばかりで、日にち感覚がずれていた。
テレビでも見ていれば何か違ったのだろうが、イベントばかりで疲れて寝てしまうので、動画さえあまり見られずにいる。
「いやさ、でもマジで京都に行きたいんだって。水無月家からもらった謝礼があるから、人生初のグリーン車に乗って駅弁堪能したいんだ」
「……それ、ただ旅行したいだけじゃないっすか?」
「ち、違うよ! 異世界から帰還した勇者は京都の人たちのために酒呑童子と鬼どもを倒し、ついでに安倍さんもぶっ殺して平和を」
「……安倍さんは一応、人間サイドっすからね」
「どっちも京都の人たちには迷惑だと思うんだけどなぁ」
「まあ、戦って影響があったら、そりゃどっちも迷惑だと思うっすけど、まだ戦ってもいねーっすからね」
「倒す気あるのか、って感じなの!」
「……クソみたいな幼馴染み放置していた勇者様とは思えない発言っすね」
「うごっ!? き、効いたなぁ。でもね、俺は関わりたくなかっただけだから。京都の霊能力者は酒呑童子に関わる気満々じゃん。そこからちげーよ! 俺はあの自称幼馴染みの一登くんのお母さんの息子さんが何したって別にどうでもよかったし!」
夏樹にしたら、安倍一族は酒呑童子たち鬼を放置できない、だというのに戦いもしていないのが気に入らない。
実際、戦っているのかもしれないが、酒呑童子を倒すために、と下っ端の鬼と小競り合いしているようではなにも意味がないと思っている。
異世界でも、敵対した魔族の一般兵など雑魚も雑魚なので相手にしなかった。用があるのは指揮官や、四天王、魔王であって、一般兵でない。
「仮にじゃが、夏樹が京都へ行くとするじゃろ」
「うんうん」
「んで、明日までに帰って来れるんか? おどれは酒呑童子がどこにいるんかわかっとるんか? 言っておくんじゃが、奴はSNSなどやっとらんぞ」
「――なん、だと? 神や魔族でさえSNSの時代なのに酒呑童子ったらおーくーれーてーるー! ああ、だから安倍一族も酒呑童子の居場所がわからないのか」
「……一応、安倍家のために補足しますけど、別に敵対する妖怪をSNSで居場所調べたりしねーっすから!」
「わかったよ。わーかーりーまーしーた! すさすさと親友とか言う不名誉を流されても困るから、京都へは行きません! ちゃんと次の土日に行きます!」
「結局行くんじゃな。じゃが、まあ、二日もあればいけるじゃろう。なーに、小梅様も酒呑童子ぶっ殺しツアーに参加してやるんじゃ。酒呑童子など、この小梅様に比べたら、雑魚も雑魚じゃ!」
「さすが小梅ちゃん!」
結局、京都へ行くことはほぼ確定した夏樹が小梅と高笑いをしていると、スマホを触っていた銀子が、ふたりに告げた。
「ねえねえ、夏樹くん。照子ちゃんが水無月家にきてほしいそうっす。全員集合だって言ってるっす」
「あの引きこもりを司る神めぇ! 俺様たちを呼びつけるとはいい根性じゃ!」
「みんなってどこまで?」
夏樹の疑問に、銀子は首を傾げてから指を折った。
「とりあえず、一登くん、七森千手、佐渡祐介くんあたりじゃないっすかね。神奈征四郎は実家でしょうし、蓮くんはお仕事中っす。さすがの照子ちゃんも仕事に勤しむ青年の邪魔をしないっすよ」
「了解!」
日曜日の京都襲撃は取りやめとなり、水無月家に向かうことになったのだった。