作品タイトル不明
間話「征四郎さんも大変じゃね?」
神奈征四郎は、疲弊していた。
数年前に教え子に一族に伝わる魔剣を奪われ、次期当主の座を失い、婚約者を奪われ、家から追い出された。だが、その後、復讐する過程で十束剣を奪い、知り合った少年と戦い、敗北し、素戔嗚尊に粛清されかけ、戦ったはずの少年に助けられ、人間が神に勝利する瞬間を目にし、なぜか十束剣を譲り受け、名もなき神剣までもらってしまった。
さらに次期当主になっていた弟と、弟嫁となった元婚約者がなんやかんやあって、甥っ子と母と一緒に生活を始めたのだが、元婚約者の妹が押しかけてきて賑やかな日々を送っている。
「……なんかちゅかれた」
日中は、元婚約者の妹である風間まつりがわかりやすく好意を示してくれる。
男として若く可愛い少女の明け透けな好意が嬉しくないと言えば嘘になるが、征四郎にとって女性はトラウマになっている。
まつりは明るくてとてもいい子だが、元婚約者の妹ということもあって、どうしても苦手意識が出てしまうのだ。
かつては妹同然に可愛がっていた少女を恐れるようなことはしたくないが、まだ心の整理ができていないのだ。
さらに風間家三女の柚子も征四郎に積極的だ。彼女はどちらかと言うと、兄への好意であるとわかるので気が楽ではあるが、まつりはそうはいかない。
母はまつりのことを気に入っているようだが、精神的にもしばらくのんびりしたい。そもそも二十代後半の征四郎が十六歳のまつりに手を出すのはいろいろまずい。
「はぁ。悪い子ではないとわかっているんだが」
万が一、何かの間違いで手を出そうものなら、破天荒な警察官である青山銀子が嬉々として逮捕しにくる予感しかしない。
「昨晩は部屋に入ってこようとしてきたが、それはまだ問題じゃない」
今時の女子高生が夜這いをしようと企んでいることはよしとする。
相手にしなければいいのだ。
――問題は、眠った後のことだ。
夢の中で必ず、前髪を揃えた幼い着物を着た少女が、
「なまえなまえなまえなまえなまえなまえなまえなまえなまえなまえなまえなまえ」
と、ずっと催促してくるのだ。
日中、頑張って人物名の辞典と格闘しているのだが、いくつか考えた候補はお気に召していただけなかった。
「てっきり最初の名前で喜んでくれる展開を気にしていたのに、女の子は大変だ」
しかも、人物名の辞典を見たまつりが、「え? もしかしてもうベイビーの名前を? もうあなたったら!」と勘違いしたのでなおさら疲れた。
「というわけで、俺は大変なんだ」
「……それを俺に言ってどうしろと!?」
「……順風満帆な日常を聞かされただけの気がするんですけど!?」
「……意味わからないかな」
向島市に遊びに来た征四郎に、ミカエル食堂での夕食の席で話を聞かされた千手と祐介と蓮がそれぞれ感想を言った。
「征四郎おじさんはモテモテですね。ふふふ、知っていますよ。こういうのをハーレムっていうんでしょう?」
「君、すごいね? 本当に五歳?」
眼鏡をくいくいしながらニヒルな顔をしてオレンジジュースを飲む甥っ子義政に、アルフォンスが戸惑いを見せていたのだった。