作品タイトル不明
間話「早めの再会じゃね?」
――異世界から帰還した勇者由良夏樹と、北欧神話の雷神トールがガチバトルをした翌日。
北欧のみならず、昨今では世界中で人気の雷神トールは、父オーディンと共に向島市の――家電量販店にいた。
「やはり温水洗浄便座といったら日本のものであろう。アースガルズになんとか持って帰れないものか」
北欧の主神であり、戦争と死の神と畏怖され、知識を貪欲に求めるオーディンは、現在貪欲に温水洗浄便座を求めていた。
「さすがに私たちには設置できません。業者さんを呼べるものなら呼びたいのですが……アースガルズでは出張費がいくらかかるかわかったものではりません」
「ふむ。確かに」
「ですが、妻や娘たちにも買ってくるように言われていますし、母も欲しがっているのでしょう?」
「そうなのだ。日本製は長持ちするからのう」
「わかります。まさかスーパーやコンビニのトイレがあそこまで綺麗で温水洗浄便座までついているとは……巨人族であれば便器ごと盗んでいたでしょう」
「かもしれぬ」
残念ながら、この場に「ねーよ!」と突っ込んでくれる人間も神も魔族もいなかった。
「――おや? トール殿? トール殿ではありませぬか!?」
どうするべきかと悩んでいるトールとオーディンの背後から柔らかな男性の声が聞こえた。
振り返ったトールは破顔する。
「雅! 雅ではないか!」
「やはりトール殿ではありませぬか!」
「久しい――というわけではないが、秋葉原では世話になった。父オーディンよ、彼のおかげでカードゲームが購入できたのですよ」
「なんと」
くわっ、とオーディンが目を見開く。
「トールが世話になったようですな。あなたのおかげで、私はカードゲームを無事に手に入れることができました。心から感謝をお伝えしたい」
「これはこれはご丁寧に。トール殿のお父上なのですね。某は早乙女雅と申します」
「父よ、雅は私の親友なのです」
「息子と仲良くしていただいているようで、父として嬉しいですな。私はオーディン。息子と共に、日本観光をしているのです」
「オーディン殿とは……トール殿と揃うと、本当に北欧神話から抜け出てきたようですな!」
ははははは、と笑う雅。
神の名前だが、海外でどのような名付けをするのかわからないため、深くは触れないことにした。
名前は重要ではない。
雅も幼少期は女性のような名前とよくからかわれたものだ。
「ところで、なにかお困りですかな? 某になにかお手伝いできることがあればいいのですが」
「……雅。秋葉原に続き、君の知恵を貸していただきたい」
「もちろんですぞ。なになに、ほうほう」
事情を聞き、雅は納得した。
海外からの観光客が日本の家電を買うのはあるあるだ。
「取り付けくらいなら某でも可能なのですが……さすがに外国にまで取り付けにいくわけにもいかないですなぁ」
「それには心配いらない、親友よ」
「……はて?」
「我が故郷にはパスポートは必要なく、また移動に時間もかからない」
「特にわしがいれば、尚更ですぞ」
「……申し訳ない。某にはよくわかりかねるのですが」
トールとオーディンの言葉の意味を理解できず、首を傾げてしまう雅であったが、海外の方なので言葉の伝え方が日本と違うのだろうと、良い意味で解釈をした。
「とりあえず、品選びをお助けしますぞ。なに、こういう物はネットで良し悪しが書かれている物ですが、鵜呑みにしてはなりませんぞ。店員さんや、メーカーから出向している方がいればより詳細にお聞きできるので、まずはそこからですぞ」
「――感謝する、雅よ」
「わしからもありがとう」
「いえいえ、困ったときはお互い様なのです」
その後、雅が間に入ってくれたのでスムーズに話が進んだ。
トールたちは、温水洗浄便座を二十台購入した。
雅が「え? 富豪な方ですかな?」とびっくりしたのは言うまでもない。
ランチを奢ってもらい、礼を言うと、トールとオーディンは「では行こうか」とにこりと笑う。
「――親友よ! 君のような心が清らかな人間ならば、我が故郷に招待するに申し分ない!」
「――おもてなしさせていただこう!」
「ほえ?」
――そして、早乙女雅はアースガルズで温水洗浄便座を設置し、英雄扱いを受けた。