作品タイトル不明
間話「ゴッドも大変じゃね?」②
全知全能の神――ゴッド。
実際はそこまで全知でも全能ではないが、神々の上に存在する地球を管理する神だ。
そんなゴッドは、連日徹夜をした疲れたサラリーマンみたいにげっそりした雰囲気を発し、向島市にある魔族リリスが経営する喫茶店の一角を占領していた。
「はい、はい。本当にそれは申し訳ございません。期日中にはなんとかしますので、はい、はい」
後光が眩しくて顔も表情も見えないが、ゴッドがスマホで電話をしながらペコペコと頭を下げているのはわかった。
電話を終えると、カップに残っていたコーヒーを飲み干し、たんっ、とテーブルに置く。
「……もうコーヒーはお腹いっぱいです! ビールを、ビールをいただけませんか?」
「昼間はお酒はやってないの」
クラシカルなパンツルックに身を包んだリリスがゴッドの前からコーヒーカップを下げて、代わりにサンドイッチを置く。
「あとね、ここは落ち着いた店なんだから、大きな声で仕事しないでちょうだい」
「申し訳ありません。しかし、急に世界をひとつ丸投げされたこっちの身にもなってください。面倒臭い世界なんですよ? そのくせ他の世界に与える影響が多いとか、飲まなきゃやってられないんですよ」
「そのためのゴッドでしょう。どうでもいいから、仕事するなら夜までにしてね。最近、暖かくなってきたから飲みにくるお客さんも増えたんだからね」
「……わかりました」
リリスの経営する喫茶店は、昼間はちょっとオシャレな昔ながらの喫茶店だが、十七時からお酒を提供してもいた。
ビールをはじめ、ウイスキー、ラム、ジンなど洋酒をいくつか扱っていて、カクテルも簡単なものなら提供している。
「お酒のことですが、芋焼酎を置いてくださいよ」
「ウチはあくまでも喫茶店だから。飲み屋じゃないの」
「はぁ。仕方がありませんね。よっちゃんの家に行って晩ごはんでもご馳走になりますか」
「せっかくの自由な日々を楽しんでいる息子に迷惑をかけるのは感心しないわね」
「……迷惑ではないはずです」
「ゴッドは存在が迷惑なのよ」
「ひどい!」
「あと、後光が眩しいから光量調節してくれる?」
「おっと、それは失礼しました。私、輝いているので」
リリスの指摘にゴッドは光量を調節はしたが、やはり後光で顔は見えない。
「というか、その世界に夏樹くんを送り込みたいんじゃないの? 迷惑かけるのが決定なら、手土産を持って土下座してきなさいよ」
「私の頭を下げるだけならいくらでもしますが、調整が必要なんですよ。あの世界は未熟であり、長いこと管理もされていませんでした。そのせいで、偏りが生まれ、本来ならば友好関係を築き……いえ、人間も魔族も関係なくひとつの生命体としてお互いを支え合うはずが、なぜどちらかが滅ぶまで殺し合うのか」
「生き物なんてそんなものよ」
「私はゴッドですが、すべてを良い方向に動かすことはできません。世界への関わりも神々の中では最も少なくしています。とはいえ、これほど手入れの行き届いていない世界は初めてみました。私の管理下にある世界だって、こんなにはなりません」
リリスがおかわりのコーヒーを注ぐ。
「ちょっと資料を見せてもらったけど、魔族も人間なんてこんなものよ。自分さえよければそれでいい」
「リリスさんは達観していますね」
「違うわ。期待も何もしていないのよ」
素っ気なくそう言い放ったリリスはゴッドに背を向けてカウンターに戻っていく。
ゴッドはリリスの背中に何かを言おうとして、言わなかった。
「さて、もう少し世界の調節をしましょう。少なくても、夏樹くんや小梅ちゃんが本気を出しても壊れないくらいにはしておきませんと」
そう言ってゴッドは再び仕事に戻った。
――ゴッドから無茶振りを言われ夏樹が絶叫するまでもう少し。