作品タイトル不明
69「京都から来たんじゃね?」①
「午後もなーんも釣れなかった」
「大漁、大漁! ごめんね、夏樹くん。僕だけ楽しんじゃって!」
「ぐぬぬぬぬ」
「……リアルでぐぬぬぬぬって初めて聞いたよ」
ポセイドンの釣具店に襲来した布袋の話を聞いた夏樹はとりあえず、落ち着かせて帰ってもらった。
少し話を聞いただけだが、布袋さんはポセイドンが向島市でポセイさんとして扱われているのが面白くなかったようだが、その根本は昨今七福神としての活動がないことだった。
そんな時にポセイドンがポセイさんとして向島市の人間から慕われているのを知り、「キャラ被ってんじゃねーか」と思ったが、結局嫉妬だった。
夏樹が話を聞いてあげたら、なにやらすっきりした感じで「今日は帰る。冷静になってからポセイドンと話をしようと思う。感謝する」と言い残して帰っていった。
神様も大変だなぁ、と夏樹が思ったのは言うまでもない。
「でも、いいのかな、ご飯をごちそうになっちゃって」
「食材を確保したのは一登だからいいんじゃない? お母さんもぜひともおいでって言ってるし」
午後の釣りの最中に、一登を晩ごはんに招いていいのかメッセージで母に尋ねたら、「歓迎よ」と返事が来たので、一緒に帰路についている。
ポセイドンは、さすがにいきなりお呼ばれするのは非常識だから、後日手土産を持ってご挨拶にいく、と約束して別れている。
「……それにしても、釣りすぎてクーラーボックスが重い」
「俺のクーラーボックスに入れなきゃいけないくらい釣ったもんね」
夏樹と一登は食べられる魚は基本的にキャッチアンドイートである。リリースは勿体無いのでしない。
ただ、この量を母に捌かせるのは申し訳ないので、ポセイドンの釣具店の台所を借りて下処理を全て終えている。ポセイドンも手伝ってくれて、彼の包丁さばきに感動して涙を流したのはまた別の話だ。
「とりあえず、煮付けだな。刺身もこれだけ数があるならいけるんじゃないかな」
「唐揚げもいいよね」
「たまんねえなぁ」
黒鯛も、臭みがなければ刺身がおすすめだ。
釣りたては身が引き締まっているので、コリコリとして美味しい。
臭みがあれば、オリーブオイルやレモンなどで香り付けしてカルパッチョで美味しくいただける。
他にも煮付けがおすすめだ。
塩焼きは独自の匂いがするので、あまり夏樹は好まない。
「白米をかきこみてー!」
「俺もお腹減ったよ」
夏樹と一登がお腹を鳴らした時だった。
結界と思われる何かに閉じ込められた。
「おいおい、マジかよ」
「今、俺たちのことを何かが覆ったよね」
「……一登も霊能力者や神や魔と関わったから少しずつ霊能面が開花してきたみたいだけど、それがいいことなのかどうか悩むなぁ」
自転車を止めて、夏樹は首を鳴らした。
「一登は俺の後ろに。なにかあったら、全力でチャリ漕いで逃げてね」
「でも!」
「大丈夫、大丈夫。空腹の夏樹くんは修羅だから。どんな敵が現れても、瞬殺瞬殺。それに、この結界見ればわかるって、どうせ雑魚だから」
「それは聞き捨てならないねぇ」
女の声が響いたと同時に、巫女装束を身につけた二十代後半の黒髪の女が数人現れる。
続いて、黒服を身につけた男が数人現れ、手には刀を握っている。
「おいおい、物騒だな。おばさん」
「……お姉さんと呼べよ」
「マジトーンで返事すんなよ」
「ごほん。あんたらが由良夏樹と三原一登やね」
「……このおばさん、なにもなかったようにやり直したぞ」
夏樹を結界に閉じ込めたことから、隠密性に長けた者の可能性がある。
もしくは、ビッグネームと会っていた夏樹には、羽虫のごとく弱々しい霊力だったので気づかなかったのかのどちらかだ。
「な、夏樹くん。この人たちは?」
「さあ。雑魚は雑魚だけど……おそらく、京都の人間だ。俺の推測だと、酒呑童子と鬼どもをぶっ殺そうぜって掲げている強硬派だろうな。どこから仕入れたのか不明だが、俺たちのことを知って利用しようと企んでいるんだろうな」
「――君、予知能力者なん!?」
夏樹の推測は大当たりだったようで、巫女服の女性たちだけではなく、男たちもざわついた。