作品タイトル不明
68「別に被ってなくね?」
牛丼を食べ終わって、ポセイドンが冷蔵庫から冷たい水出し麦茶を出してくれる。
「かー、たまんねぇ」
「ビール飲んだ人みたいになってるね」
「麦茶とか久しぶりに飲んだ! 夏ー!」
「いや、早いよ」
グラスをあっという間に空にすると、ポセイドンが何も言わずに注いでくれた。
「ありがとうございます」
「よいよいのだどーん! ところで、かずちゃんは随分魚を釣ったようだどん?」
「メバルと黒鯛です。見ますか?」
「見るのだどーん!」
釣り人の性というべきか、釣果を自慢したくなるのは一登も同じだった。
クーラーボックスを開き、珍しくドヤ顔をした。
「ふむふむ。よいメバルと黒鯛だどーん! 来月になれば、メバルも型がよくなると思うのだどんが、これはこれで煮付けが良さそうだどーん」
「煮付けかぁ。あ、でも」
一登は暗い顔をしてしまう。
夏樹とポセイドンがどうしたのか、と彼の顔を覗く。
「兄貴が死んだばっかりで、お母さんに料理してもらうのも悪いよね」
「……あー、うん。どうだろ」
「私はいい親ではないんだどんが、親は子がいつも通りのほうがいいのだどん。特に辛い時なら、なおさらだどん」
「……ポセイさん」
「だが、子供が親を気遣う気持ちもわかるのだどん」
三原家のご両親は、優斗が亡くなり安心した様子があるようだが、それでも子供の死を喜んでいるわけではない。
ショックはあるだろうし、喪失感もあるだろう。
いつも通りの生活を送れるかどうか、わからない。
「じゃあ、ウチにおいでよ」
「夏樹くん?」
「お母さんも一登の心配していたし。一登だってワイワイご飯食べた方がいいでしょ」
「……夏樹くん」
「あ、ポセイさんも来る?」
「……さすがに私が行ったら迷惑だどん」
「でも、サタンとかリヴァイアサンとかルシファーとか、昨日はオーディンとトールさんもいたよ」
「……ギリシア神話の神っていろいろ言われるんだけど、他の神話の神々や魔族も大概だどーん!」
でしょうね、と夏樹と一登が苦笑した。
「まさかとは思うけど、ゼウスさんとか地上にいないよね?」
「ゼウスなら、向島市の老人ホームで介護職員として働いているのだどん」
「なんかすごい! 逸話はクソッタレみたいな神様だけど、今のゼウスさんは素直に尊敬するかも! つーか、また向島市にいるのかよ! この街はなんなんだよ!?」
「……だよね」
ゼウスが介護職をしていることは驚きを通り越して尊敬するが、なぜ向島市にいるのかが疑問でしかない。
「魔族も神もさぁ――あれ?」
「夏樹くん?」
「神が近づいてくる」
「え? 神様!? ポセイさん以外の?」
「うん。感じからして、かなり強い神だね」
夏樹が冷や汗を流していると、ポセイドンが肯定した。
「……最近、とある神に因縁をつけられているのだどん。まさかなっちゃんとかずちゃんが遊びに来てくれているのに……タイミングが悪いのだどん。すまんだどん」
「ポセイさんが謝ることはないって。どこの神様だか知らねえけど。俺たちのマブダチポセイさんに因縁つけるたぁ、いい度胸だ。その度胸に免じて輪切りで勘弁してやる」
夏樹が立ち上がると、一登とポセイドンが止める間もなく外に出ていく。
釣具店の外にでると、恰幅のよい中年男性がいた。
「くぉら、ポセイドン! てめぇがポセイポセイ名乗るから、俺とキャラが被ってるんだよ!」
「おい、こらおっさん! どこの神様だか知らねえけど、ポセイさんに因縁つけてんじゃねーよ!」
「なんだ、この坊主は! 俺は因縁をつけてるんじゃねえよ、正当な抗議をしているんだよ!」
「正当な抗議だぁ? そういうこと言う奴に限って碌でもない御託を並べるんだよ。ポセイさんが何したって言うんだ!」
「俺は布袋! ジャパンでわかりやすく言うなら、七福神の布袋だ! ポセイドンが立派な名前があるくせに、ポセイポセイ名乗るから、微妙にキャラがかぶるんだよ!」
「……まさかのビッグネーム様でしたか、なっちゃんたら失礼なことを。このお茶目さん!」
正月のお飾りでお世話になっている七福神の布袋の登場に、喧嘩腰だった夏樹は慌てて茶目っ気を出して誤魔化そうとした。