作品タイトル不明
67「心配されたんじゃね?」
ポセイドンのカミングアウトに固まっていた夏樹と一登であったが、いつもと変わらぬ笑顔で微笑む海パンとフィッシングジャケット姿の彼が、変わらず「ポセイさん」であるとわかり、肩の力を抜いた。
とりあえずせっかくなので、と牛丼チェーン店に寄ってからポセイドンの経営する釣具店の奥で話をすることにした。
「久しぶりだな、ここ。ポセイさん、たまにしか店開けないから」
「すまない。私も神ゆえ忙しいのだどーん!」
「確かに神様みたいに釣りがうまかったけどね」
牛丼を食べながら夏樹と一登はポセイドンから釣りを教わった幼少期を懐かしむ。
釣竿の握り方、糸の結び方、魚とのやりとり、水との会話、多くのことを教えてもらった。
まさかふたりも、海神で有名なポセイドンから釣りの指南を受けていたとは思わなかった、と苦笑する。
「もしかして、いつも一緒に働いている人って女神様!?」
「いや、近所のパートさんであるだどーん!」
「神様がパートを雇う時代かぁ。令和だなぁ」
さらなる神の登場に一瞬期待してしまった夏樹と一登が肩透かしを覚えた。
「私も妻や子と一緒にと考えたんだどーん。だが、ほら、私は妻も子も多いから揉めに揉めたんだどーん! 妻たちは掴み合いまでしてしまったんだどーん」
「知りたくなかったそんな裏話」
「うん。なんか大人ってやだなー」
それはさておき、とポセイドンが咳払いをする。
「なっちゃん……いや、雷の剣を宿し、海の力を持つ少年よ」
「……ポセイさん?」
急に声音を固くしたポセイドンに、夏樹が身を固くする。
「海というのは人にも、神にも大きすぎる存在だ。愛をもたらしながら、荒ぶるとどこまでも恐ろしい。それが海だ。そなたには強い海の力が宿っているが、未成熟な身体で使えばどのような代償を支払うのかこのポセイドンでもわからぬ。使わないことを、心から願う」
「……ポセイさん」
「先日の素盞嗚尊、雷神トール、マモンとの戦いを私も見ていたが、異世界で手に入れた聖剣がなくとも神々や魔族に匹敵する力を持っている。そこに聖剣が加われば、神を凌駕するのは実際に戦ったのでわかっているだろう。ゆえに、海の力は不必要であるため、使うことはない」
一登にはわからないようだが、夏樹にはポセイドンの言葉の意味を理解した。
「数多の神が、英雄が、大きな力に振り回された。幼い頃から知る君が、そのような目に遭うことは神としてではなく、ひとりの友人として望まない」
「うん」
「もっとも、現時点で強すぎるそなたに海の力を使う機会がくるとは思えぬが、万が一ということもあるので釘を刺させてもらった」
「ありがとう。海神ポセイドンの注意なら俺も素直に聞くよ」
「それで良い。私がもっと器用であれば、そなたの力に方向性を示すことができたのだろうが……」
「俺も海の勇者の力をこっちで使うつもりはないから、大丈夫大丈夫」
「ならば良いのだ」
静かに頷くポセイドンに、夏樹は感謝した。
「えっと、つまりどういうこと?」
いまいち事情を飲み込めない一登がおずおずと問いかけると、ポセイドンが笑い飛ばした。
「心配することはないのだどーん! なっちゃんが海の力とかいうつえーに使ったら、内側からぱーんってするからやめとくんだどーんって話なのだどーん!」
「めちゃくちゃ心配する案件なんですけど!?」