軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

間話「さまたんと太一郎くんじゃね?」

かつて魔界の覇権をかけてサタンと激突した過去を持つ魔族サマエルは、令和の春の夜に居酒屋で飲んだくれていた。

「……ちくしょう、てやんでい! カップルチャンネルがなんぼのもんじゃい!」

飲み干したジョッキをテーブルに叩きつけながら、サマエルはひとり愚痴っていた。

原因は、言うまでもなく部下である七つの大罪の魔族マモンのせいだ。

スタッフ募集をしたと思えば、女子高生の彼女を連れてきてイチャコラしているのだ。

真門亜子は、さまたんのファンであり、悪い子ではない。それはわかっている。

だが、彼女に関わるともともとうざかったマモンがさらにうざくなるのだ。

飲まなければやっていられない。

「あらあら、さまたん。飲みすぎよぉ」

「おばあちゃん、生お代わり!」

「はいはい」

亜子は来るたびに、お菓子やお弁当を作ってきてくれる。

彼氏のマモンだけではなく、サマエルの分も当たり前のように、だ。

おばあちゃん仕込みの料理は美味しく、ありがたく頂戴していた。

マモンに至っては、「亜子さんの手料理まもんまもん!」と大喜びしている。お前は、中学生かなにかかと突っ込みたくなったの言うまでもない。

しかし、亜子の楽しそうな顔と、今まで殺伐とした世界で生きていたマモンの幸せそうな顔を見ていると、あまり文句は言えないのだ。

「荒ぶってんな、さまたん」

「……なーんで太一郎がここにいるんだよ」

「お前が呼び出したんじゃねえか」

「……あれ? そうだっけ?」

「わ、わざわざ青森まで飛んできてやったのに」

引き攣った顔をしてカウンター席の隣に座ったのは、唯一サマエルに戦いで勝利した魔族であり魔界の支配者である魔王サタンだった。

「おばあちゃん、俺にも生を頼むわ」

「誘った私も私だけど、来る太一郎も太一郎だな」

「最近は日本を拠点にしているからな」

「……そういえば、由良夏樹のところに顔を出しているみたいだな」

「ああ。毎日愉快だぜ」

「こっちも毎日愉快すぎるぞ!」

カウンターに置かれたジョッキを持ち、サタンとサマエルは乾杯をする。

勢いよくビールを飲み干し、ふたりはおかわりをした。

「ついでに、だし巻き卵をお願いね」

「はいよ」

愛想のいいおばあちゃんが接客をして、寡黙なおじいちゃんが黙々と料理を作り、酒を注ぐ。

お互いのことを十分に理解しているのだろう。

阿吽の呼吸でテキパキと動く姿は、熟年夫婦のそれ、だ。

「俺もいつか春子さんと」

「子持ちが何言ってんだよ」

「子持ちだって夢見たっていいじゃない」

「あんだけ小梅たん小梅たんって言ってるくせに」

「……小梅たんは夏樹という宿木を見つけた。パパはそっと見守るだけだ」

「きもーい」

「ひどーい」

新たなジョッキが来たので乾杯をした。

「ところで、さ。マモンともちょっと話したんだけど、由良夏樹って結局なんだったの? マモンもとてもまもんまもんですね、ってわかってんだかわからないんだか」

「マモンは相変わらずだなぁ。夏樹か……俺にもよくわからん」

「完全なる血統って言うのは知っているけど、それだけで七つの大罪の魔族を追い込むことはできないんだよ」

「そりゃそうだ。ついでに素盞嗚尊、雷神トールとも戦って勝ったぞ」

「なにそれこわい」

「こわいよな。義父的にも怖い」

サタンは目の前に置かれた熱々の出し巻き卵を口に運び、はふはふ、してからよく味わう。

「個人的には夏樹と戦ってみたいんだけどな。その場合はどっちかが死ぬだろう」

「死ぬほど戦ったからもういいや、って言った太一郎にしては珍しい」

「それくらい興味があるのさ。とはいえ、現時点だと俺が勝つな」

「確か、由良夏樹は本気が出せないんだよな」

「本気は出すが、あくまでも弱体化している状態の中で、だ」

「弱体化していながら、マモン、素盞嗚尊、トールを倒すのか……世が世なら新たな神話になるぞ」

「違いない。神話といえば、まもんまもんのネット上でのバズりが神話級なんだが」

「それを言わないで!」

新たな神々が現れて暗躍する昨今。

古参の魔族であるマモンが、こうして人間たちに注目され人気になっている現状は、新たな神々が「ぐぬぬぬ」と言うほど悔しがるだろう。

恐ろしいのが、マモンが狙っているのではなく、素が受け入れられているのだから驚きを禁じ得ない。

「昔は、まもんまもんってなんだよ。ふざけてんの? とか言われていたのに、今じゃまもんまもんフィーバーだもんね」

「彼女もできたらしいじゃないか」

「そうだよ! だから居酒屋で飲んだくれてんだよ! あいつらぁ、今後の動画の参考にしましょうまもんまもんとか言いながら、カップルチャンネル見てるんだぜ! なんの参考にするつもりかなぁ!」

「ま、まあ、部下が元気でいいじゃない。あ、おばあちゃん、生をお代わり。あと、肉じゃがもちょうだい。ほら、さまたん、今日は奢ってやるから、な」

かつて魔界の覇権をかけて殺し合ったサタンとサマエルは、現代の世でひっそりと飲み友達だった。