作品タイトル不明
64「ついにバレたんじゃね?」
「ふぁ……いい朝。俺って意外と図太かったんだなぁ。京都の記憶を取り戻して、円ちゃんが円くんで、なぜか俺が死んでるとか、ジャックたちに改造された予感がとかそんなイベントを経験したのに――ぐっすり寝ちゃった!」
ちゅんちゅん、と窓の外では雀さんが可愛く鳴いている。
「……肉体的にも精神的にも負担が大きかったから眠ることで考えることを拒否したんじゃないだろうか? と、サタンは考えるんだが」
「その可能性もないとは言えないかな」
「サタン的にはそれしか考えられないんだけどなぁ」
昨晩、宇宙船に置いてきぼりになったサタンを回収したあと、夏樹はもう眠いと寝てしまった。
夢など見ず、目を閉じて開いたら朝だった。
トールと戦った疲れも八割ほど取れている。
「さーて、今日は絶好の釣り日和だ!」
「……あら、やだ。この子、学校サボる気満々! でも、サタン的にはそういうの嫌いじゃないよ」
「今宵は刺身だよ」
「釣れないフラグ立てるなよ」
なんてやりとりをしながら、ジャージ姿の夏樹と、パジャマ姿のサタンが一階の茶の間に降りていく。
(今さら気づいたけど、このおっさん……パジャマ持参してるぅ。もう居座る気満々だろぉ)
と、思いつつ、この魔王は自由気ままなので今さらだろう。
いずれ小梅が鬱陶しがって追い出すのが目に見えているので放っておくことにした。
「おはようございます」
「おはよう、諸君。あ、春子さんおはようございます!」
茶の間にはすでに家族の面々が集まっていた。
母とナンシー、リヴァイアサンが朝食の支度、ジャックがお皿の準備を、銀子がテーブルを拭き、小梅が家主よろしく新聞を広げている。
「おう、おはようさんじゃ。はよ座れ」
「……パパ的に、娘がまるで昭和のジャパニーズパパみたいになっているのがどうかと思うんだけど」
「大きなお世話じゃ」
夏樹はその間にうがいと歯磨きをして、茶の間に戻ってくる。
朝食は、スクランブルエッグにウインナー、ポテトサラダにコーンスープ。商店街のパン屋さんで買ったロールパンがバスケットに置かれて並んでいる。
夏樹は米派なので、お茶碗にツヤツヤのお米がよそられていた。
「じゃあ、いただきましょう」
「はーい! 春子さん、いただきます!」
「うふふ、召し上がれ」
サタンはニコニコ顔だ。
春子と朝食を囲むことができるのが嬉しいのだろう。
その後、サタンが料理漫画に出てくる審査員みたいなことを言い出すが、耳障りなので無視することにした。
「ねーねー、夏樹きゅーん」
「……なんすか、リヴァ子さん」
「僕ねー、春子ママが未来のお義母様ならやっていけると確信したよー」
「なんで?」
「優しくて素敵なママだねー。僕、創造主はゴッドだけどー、あいつは親らしいことしないから、ちょっと親って存在に憧れてたんだよねー」
「……俺とどうこうなるのはさておき、お母さんならリヴァ子さんも娘のように受け入れてくれるさ」
「そうだといいなぁ」
先ほど、リヴァ子は朝食を作る手伝いをしていたし、本当に母に母性を感じているのだろう。
「ごちそうさまでした!」
「あら、今日は早いのね。いつもならもっとゆっくりしているのに」
手を合わせてから、食器を流しに持っていく夏樹に母が尋ねる。
「今日は一登が迎えにくるからさ」
「そう?」
「うん。ちょっと支度してくるね」
夏樹はそう言い残して部屋に戻っていく。
しばらくして、上下レイジャケットを着込み、フィッシングジャケットとサングラス、帽子を装備し、肩には釣り竿の入ったケースを担いでいる夏樹が玄関に向かう。
「――じゃあ、学校に行ってきます」
「――待ちなさい。さすがにその格好で学校にいくなんてことはないでしょう。騙されないわよ」
玄関で長靴を履いて釣りに行く気満々の夏樹を、さすがに春子も見逃さなかった。