作品タイトル不明
62「記憶喪失なんじゃね?」②
夏樹は庭で夜風にあたりながら、ぼーっと考えごとをしていた。
まさか自分が記憶喪失だとは想像したことさえなかった。
もっと忘れたい記憶は山のようにあるのに、幼少期の記憶を無くしているとは悲しくなる。
京都の霊能力者安倍円が自分の友人であることはまだはっきりしたわけではないが、そうであるのなら復讐に取り憑かれてしまっている彼に申し訳ないと思う。
異世界でも復讐者は多くいた。
魔族に家族を殺されて復讐者になった人間がいた。彼は復讐のためなら犠牲がどれだけでても構わなかった。老若男女問わず犠牲を出し、魔族に勝つためなら隣で戦う戦士を盾にするなど行動に問題があった。
なので夏樹が斬り殺した。
殺された本人は絶命する間際に「なぜ?」と目で訴えていたが、戦いの邪魔だったのだ。
また人間に故郷を蹂躙されて復讐の鬼となった魔族もいた。
四天王のひとりに上り詰め、復讐心を抱きながら魔王軍の部下たちを家族とし、大事にしていた男だった。
彼は復讐者であると同時に、新たな家族を守ろうとする立派な男だった。
しかし、夏樹にそんなことは関係なく、地球への帰還のために、まずは仲間を一撃で灰にして、絶句しているところを首を刎ねて殺した。
復讐者の末路などこんなものだ。
神奈征四郎も復讐者であったが、超えてはいけない一線はちゃんと踏みとどまっていたし、元が善人であったためか、人的被害も出さなかった。
結果として、彼は復讐をやめて日常に戻ってきている。
復讐などしないほうがいいと言う例だ。
「黄昏ておるのぉ」
「小梅ちゃん」
ビール片手の小梅が、魔王サタンと共に夏樹の両横に座る。
「なんじゃなんじゃ、夏樹らしくもない。記憶がないならそれでええじゃろう」
「そうだぜ夏樹。俺なんて、太一郎とかいう名前は記憶喪失してナイスミドルな魔王サタンとして前向きだぜ」
「ナ・イ・ス・ミ・ド・ルとか笑えるんじゃが!」
「……小梅たん、パパ泣くよ。おぎゃあって泣くよ。赤ちゃんみたいにすごく泣くよ」
「やめろぉ!」
慰めたいんだか、笑わせたいんだかわからない親子の漫才が終わると、なぜかふたりして夏樹の肩をがっしりと掴んだ。
「あれ? 小梅ちゃん? サタンさん?」
「まあまあ、夏樹。ここはプロに任せようぜ」
「プロ!? プロって何!?」
「先生、出番じゃぞ!」
「先生ってどなた!?」
夏樹が叫んだ時だった。
上空から淡い光が夏樹たちを包むと同時に、浮遊していく。
「――アブダクション!?」
ごうん、ごうん、と謎の音を立てている宇宙船の中に夏樹たちは吸い込まれていった。
■
そして、目を開いた夏樹は、拘束をされて銀色の無機質な手術台のようなものに寝かされていた。
「――ワレワレハウチュウジンダ」
「知ってますぅ!」
「――イマカラアナタニ、ショチヲオコナイマス」
「待って、待って、なんでナンシーさんはぶっとい注射持ってるの? 落ち着け、落ち着くんだ。ジャック、なんでお前はエプロンをしているのかな? アメリカの肉屋さんが身につけている感じのエプロンじゃん? もしかして、血対策? 血対策しちゃう?」
「イマカラ、ナツキノウシナワレタキヲクヲトリモドス」
「本当に記憶取り戻すだけ? おいおい、待てよ。視界の端にメスがあるぞ! ナタみたいのもあるぞぉ! 取り戻すついでに、なにか失わないよね? 親友にそんなひどいことしないよね?」
夏樹の懇願虚しく、ジャックとナンシーによる夏樹の処置は始まってしまった。