軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

間話「京都が不穏なんじゃね?」

――安倍東雲は規格外な人間だった。

生まれた時から強い霊力を持ち、低級の妖怪や悪霊ならば近づいただけで消滅してしまうこともあった。

小学生に上がる頃には、安倍家当主の父親を超える霊力を手に入れ、中学入学前に父親を『稽古』と称して完膚なきまでに叩きのめした。

力だけではなく、ふらりといなくなっては強い妖怪を狩り、金儲けしてくるという不思議な癖もあった。

一方で、友人は作らず、家族を、特に弟妹たちを大切にし、部下となる者と家族を重要視する。身内と定めた者には懐が深く、対して敵対する者にはとことん冷酷だった。

安倍東雲は霊能関係、特に『院』に所属する霊能力者からは蛇蝎のように嫌われている。

きっかけは、院の霊能専門学校に単身で現れ、名のある生徒と教師をすべて倒して看板を持って帰ったのだ。

所謂、道場破りだ。

しかも、後日「やっぱりいらへん」と看板を着払いで送り返してきたのも、彼を嫌うものが多い理由のひとつだ。

また霊能力者としても、異常であるため、危険人物扱いをされることが多い。

妖怪を使役することはもちろんのこと、自ら受けたダメージを妖怪に背負わせることができる術式を生み出し、どんな妖怪相手でも負けなしだ。

準備さえ整えば、酒呑童子の首すら取るだろう。そう言う同業者は多い。

――そんな安倍東雲が、まさか天敵酒呑童子の娘である茨木童子とカップル動画配信をしようとするなど、いくら弟とはいえ安倍円も予想できなかった。

「……なに、してるん?」

「――円?」

円にとって少し歳の離れた兄は、父親代わりとまではいかないが、育ててくれた恩のある家族だ。

父親はお世辞にも子育てがまともにできる人間ではなかったので、兄東雲がどれだけ苦労したのか円は知っている。

感謝しているし、尊敬もしていた。

霊能力など抜きにして、ひとりの人間として慕っていた。

「……その女……ボクでも知っとるで。茨木童子やろ」

「円……話を聞いてくれへんか?」

「まさか……鬼と通じとるのが本当やったなんて……しかもなんやねん、動画配信とかなめとんのか!」

「ま、まだ動画は配信しとらん。今日が初撮影なんや」

「そんなことは聞いとらんわ! あんたが鬼と仲良しこよししようとしとるのはしっとったけど、まさか鬼と恋仲になっとるなんて。結局、自分の都合のいいようにしたいだけやったんやな」

「誤解や、円! この子は円が考えとるような子やない」

「だったら、なんやって言うん!?」

「――円の命の恩人や」

「――は?」

自分の耳を疑うのは、二度目だった。

「……今、なんて言うたん?」

「この子……茨木童子はんはお前の命の恩人やで。鬼に襲われたあの日……円んことを安倍家に届けてくれたんは彼女や」

「……ありえへん」

「安倍家に鬼が近づけばどうなるかわかっとりながら、幼い円が傷ついている姿を見てみぬふりをせんで、助けてくれたんや。こんなに心が綺麗な子は、人にもおらん」

「そんなん知るか! クサいセリフを重ねよって、この腐れ兄貴!」

円は話を聞くことがないとばかりに、背を向けて走り出してしまった。

「はぁ。まさか円につけられたなんて……自分もまだまだやなぁ」

「……よかったの?」

「よくはないかなぁ。せやけど、自分たちの目的のために利用し合う……自分と君とで約束をしたんからね。弟を騙すのは胸が痛むんけど、君が命の恩人であることは事実やからね」

「……そう、ね」

「自分は酒呑童子と他の鬼どもを殺すためや」

「私は人間と共存するためだものね」

「あんのクソ兄貴っ……いや、ボクが怒っても仕方がないことや。兄貴はもともと共存推奨をしとるんやから、鬼の女と結ばれることもあるやろう。せやけど、それはそれこれはこれや。ボクは鬼を殺す。それは変わらんよ」

「よくぞ言ってくださいましたぁ」

「……またアンタらか。ボクは強硬派には加わらん。お前らで好き勝手やればええ」

「そのお言葉だけでありがたいですぅ。私たち強硬派は安倍東雲を倒し、酒呑童子を殺します。くれぐれも邪魔せぬように」