作品タイトル不明
60「驚きを隠せないんじゃね?」
夕食が終わり、一息つくとトールとオーディンはタクシーでホテルに帰って行った。
トールは片付けを手伝ってくれていたのだが、母春子が「お客様にそこまでしていただかなくても」とやんわり言ったので、トールも迷惑にならないよう「お言葉に甘えましょう」と素直に頷いてくれた。
そして、夏樹に再会と故郷へ招待すると約束を交わすと、オーディンと共にタクシーに乗った。
「素敵なお客さまだったわね。夏樹ったら、良い人と縁があるのね」
「うん。珍しくいい人だったなぁ。最近はまもんまもんとかすさすさとかぬらぬらとか濃いめだったからなぁ」
「ふふふ。その縁を大事にしなさいね」
「はーい」
エプロンをつけて母と一緒に洗い流しをしながら、そんな会話をした。
たまには家事を手伝うのもいいことだ。
いつもはジャックとナンシーが積極的に家事をしてくれているし、洗い流しなどは小梅と銀子もやってくれる。
家主気取りで新聞を広げているのはサタンだけだ。
「最近の夏樹は楽しそうね」
「そうかなぁ?」
「そうよ。少し前までは、毎日……苛立っているような、覇気がないような感じだったもの」
その理由まで母は言わなかったし、夏樹もなにも言わなかった。
「最近さ、商店街で食堂を始めるアルフォンスさん、小林蓮君、大学生の佐渡くんや、七森千手さん、神奈征四郎さんとかいい人たちと知り合ったんだよ。怒涛の二週間だったなぁ」
「ちゃんと一登くんのことも気にかけてあげてね」
「もちろんさ。明日は、一登と釣り行くからね」
「お刺身たくさん食べたいわ」
「俺がそんなに釣ってきたことないでしょうが」
「うふふ。そうだったわね」
一登と何度も釣りに行ったことがあるが、一度して大漁や大物を釣ったことはない。対して、一登は何かしら大物を釣る。魚たちは一登が好きのようだ。
「そういえばさ」
「どうしたの?」
「ありえないと思うんだけど」
「なによ?」
ありえないとわかっているが、先日見た夢の内容があまりにもリアルだったので、確認するように母に尋ねてみた。
「まさかとは思うけど、俺って京都にいたことないよね」
皿を洗いながら何気なく聞いた夏樹に、母は目を丸くして驚いていた。
「待って待って待ってまって」
夏樹はとてつもなく嫌な予感がした。そして、その予感は的中した。
「――夏樹……京都にいた時のことを思い出したの?」
母の発言に夏樹は感情を持て余して叫んだ。
「――अरे बाप रे!?」