軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31「まんざらでもなくね?」①

――時間は少し遡る。

向島市警察署署長室にて、青山久志は苦い顔をしてお茶を啜っていた。

まさか我が子のように大切に面倒を見ていた由良夏樹が、異世界に勇者として召喚され体感で六年も戦ってきたのも驚きだが、異世界で手に入れた力を持って日本に戻ってきたのも理解の範疇を超えている。

さらに言うと、中学時代から様々な事件に巻き込まれ、警察官になっても非日常な世界に身を置き続けた久志においても夏樹の底が見えないのだ。

可愛いはずの夏樹が、とても怖かったのだ。

だが、話してみてほっとした。いくら強い力を持っていようが、異世界で過酷な体験をしようが、根は久志の知る夏樹のままだった。

(若干、すれちまっているのが心配だが……なにかあったら大人がフォローしてやればいい。まずは、水無月家をなんとかしねえとな。あそこは土地神の水神を祀っていやがるからなかなか手を出せないんだが、よくねえ噂もある。夏樹が巻き込まれる前に、釘を刺しておいた方が……当主は話がわかるが、老人どもが話が通じねえからなぁ)

はぁ、とため息をついてみる。

ため息の原因は、夏樹や水無月家のことだけではなかった。

――目の前で魔剣に頬擦りしてよだれを垂らしている娘に頭痛を覚える。

「たまんねえ、たまんねぇっすよ。なんすか、この魔剣太郎さん。切れ味とか半端ないっす。悪さしていた悪魔をすぱんっ、ですよ。すぱんっ! 私が持っていた霊剣も結構業物っすけど、比べ物にならないっすねぇ! ぐへへ」

だらしない顔をしているのは、パンツスーツを身に着け、長い髪をポニーテールにしている、二十歳ほどの女性だ。

名を青山銀子と言い、青山久志の娘だった。

夏樹から魔剣をもらった銀子は、さっそく試し切りだとばかりに人に害する悪魔を斬り捨てていた。

最近、悪魔の――特に淫魔の類が増えた気がするが、銀子にとって魔剣を使うための標的が増えたくらいの感覚でしかなかった。

「おい、そろそろこっちに戻ってこい。あと、その魔剣は返却するんだから、きたねぇよだれを垂らすな」

「は? 返すわけねぇっしょ。夏樹くんがくれるって言ったんですからー、お父さんにとやかく言われる理由はありませんー!」

「異世界の魔剣とか扱いに困るだろ!」

「困んねーっす! 自分で言うのもなんですけど、私の腕前なら使いこなせますって」

「お前は剣を使うのが上手いだけで、技術もなにもないだろうが」

「強いんだからいいんですって。ま、あくまでも人間の範疇ですけどねー。私に比べたら、あの子はやばいっすよー」

「だよな」

娘が夏樹を話題にしてくれたので乗っかる。

自分の娘ながら、マイペースなので扱いに困る。

普段は上司と部下として扱っているものの、実際は久志にしか扱えない問題児でもある。

「お前からみてもやばいのか、夏樹は?」

「逆に聞きますけど、あの子にやばくない要素ってありますか?」

「――だよな」

「ですよ」

「おし。お前が嫁に行け!」

「は? 頭沸いちゃったんですか? 夏樹くんがやべぇって話しているのに、なんで嫁に行く話になってるっすか?」

久志の提案はマイペースな娘でも困惑させるには十分だった。

「前々から思っていたんだ。春子さんが俺を選ぶことはないだろう」

「……そりゃ、良識ある方なら、妻子持ちの男は選ばないっしょ。お母さんも、春子さんを狙っているのはこえーっすけど、幸いなことに春子さんは常識人っすからねぇ」

「ならば、夏樹の義理の父になればいいと考えていたんだ!」

「そんなこと企んでたんっすか!?」

「安心しろ、もともと息子同然だったんだ。問題ない!」

「娘が問題ありますって!」

「……娘など所詮道具でしかない」

「今どき悪そうな政治家でも言わねー台詞言いやがったな!」

夏樹の知らないところで親子喧嘩が始まっていた。