作品タイトル不明
58「雷神様に負けないんじゃね?」②
ミョルニルと夏樹の額がぶつかり、轟音が響き渡った。
「――馬鹿な」
雷神トールは、今日、何度驚いただろうか。
いくら砕けていてもミョルニルはミョルニル。高い攻撃力を持つ。さらに雷神トールが全力で振るったのだ。人はもちろん、神であっても粉砕したであろう。
――だが、夏樹の額こそ割れて血が流れていても、砕けても、粉砕もされていない。
ただ不敵に笑い続ける夏樹がいた。
「――素晴らしい、まるでヨルムンガンドのようだ」
倒すことのできなかった毒蛇を例に出し、トールは夏樹を称えた。
「――ありがとう」
礼を言った夏樹は、聖剣神鳴りの剣を斜めに振り下ろした。
■
斜めに両断されたトールは、背中からではなく、前のめりに倒れた。
戦士としての意地もあったのだろう。
彼の顔はどこか満足そうだ。
絶命こそしていないのはさすがだが、時間の問題だ。
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああ! ちょっと目を離している間に何しているんですかぁあああああああああああああああああああ! 自分の神域で他国の神様をぶっ殺すとか勘弁してほしいんですけど! 治療、治療! とにかく治療!」
「――あ」
神域に天照大神の叫びが響くと同時に、夏樹が「やっちまった!」と気づいた。
ノリで始めた喧嘩であったが、気づいたら殺し合いに発展してしまった。
雷の聖剣を持つ勇者としては、雷神には負けられない、とつい限界まで本気を出してしまったのだが、大変なことになったと慌て――ようとして、膝を突き、吐血した。
「……しまった。俺のほうも限界か」
(馬鹿ねぇ。私の力を使う前に六割も出すからよ。死なないように回復はしてあげているけど、それでも限界があるわよ。馬鹿みたいに雷神の一撃を頭で受け止めなきゃ、もっと余裕があったのに)
(さーせん)
何度か咳き込んで血を吐いていると、小梅と銀子が傍にいた。
「なにやっとんじゃ、夏樹! ついぽかーんとして眺めておったが、トールはさておきおどれが限界になるまで戦う必要はなかったじゃろ!」
「……小梅ちゃん」
「そうっすよ! とりあえず、ヒールを使ってほしいっす! 照子ちゃん! 神のパワーで夏樹くんをなんとかしてほしいっすけど!?」
「……銀子さん」
「ちょっとまってくださいね! えっと、回復回復、えっと、ここじゃなくて、あ、最後の方だっけ」
「おい、こら! もしかして参考書みたいなもん読まなきゃ使えねーなんてことはないっすよね!?」
「自分、天照大神ですよ! 回復が必要になることなんて滅多にないんですよー!」
「おどれはそれでも最高神か!」
天照大神が神域の向こうで慌てふためいているのが伝わり、小梅と銀子が慌てる。
「天照大神殿、それには及ばんよ。このわしに任せていただこう」
この場にいないはずの、誰かの声が響いた。
「素晴らしい戦いであった。年甲斐もなく興奮してしまった」
声の主は老人だった。
帽子を被ってローブを羽織った、白髪と白髭を蓄えた老人だ。
夏樹も、銀子もすぐに老人が神だと理解した。
さらに言えば、名の知れた神であろうとも本能的にわかった。
「……オーディンのクソジジィ! いいところにきよった! おどれの息子はどうでもええから、早よ夏樹を回復せんかい!」
「じじい使いが荒いのは相変わらずであるな。まあ、いい。そのつもりで、この場に姿を見せたのだからな」
小梅にオーディンと呼ばれた老人が、手にしていた長い杖で地面をコン、と叩いた。
すると、淡い光が夏樹とトールを包み込み、瞬く間に全快させる。
「おお、これは力が戻ってきたぞ! ありがとう、おじいちゃん」
「よいよい。馬鹿な息子が迷惑をかけた。喧嘩をすると言って飛び出したのを見送ったわしも悪いが、まさか全力で殺し合いをした挙句負けるとは……」
呆れと、夏樹に対して興味を抱くような顔をして、老人は笑う。
「父オーディンよ」
「トール。具合はどうだ?」
「はい。おかげで全快です」
「人の子は強いであろう」
「はい」
「お前は強いが、人の子は時として神を超える。よい勉強になったであろう」
「……自分の矮小さを痛感しました」
「ならばいい。どうせ神々は暇だ。今後も鍛錬に励むといい」
「――はっ!」
オーディンの前に膝をついたトールが深々と頭を下げる。
「それにしてもよかったです。まさかオーディンのおじいちゃんがきてくれたなんて」
「天照大神殿も相変わらずのようだ」
「あはははは。それはそれとして、息子さんが心配だったんですね?」
「……いや。我が息子に頼んだカードデッキで早く遊びたくてつい日本に遊びにきてしまった」
「……おい!」