軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

57「雷神様に負けないんじゃね?」①

夏樹の聖剣は雷の力がわかりやすく剣となったものだ。

ゆえに自在に形を変えることができ、時には単純な雷撃として、時には剣として、時には槍や矢として使うことができる。

だが、聖剣の力はそれだけではない。

聖剣に選ばれた勇者である夏樹の力を底上げすると同時に、超人的な膂力を与える。そして、回復魔法を使わずとも自動回復効果もある。

しかし、それでも聖剣の真骨頂は――その身を荒ぶる雷と換えることであるが、その力は現在の夏樹では使いこなせていない。

聖剣の力を十全に使ったことは、全盛期の夏樹でもなかった。

そして、現在。

無理やり引き出した自力の六割に、聖剣の力を重ねがけしたことで、素盞嗚尊と戦った時よりも比べ物にならない力を手に入れた。

素盞嗚尊と戦ったおかげで、夏樹の力が十四歳の肉体という中で拡張が行われたためだ。

――ゆえに、強い。

聖剣とミョルニルがぶつかり、神域を衝撃波が襲った。

風は唸りを上げて嵐のように暴れ狂い、地面を砕き、木々を舞わせる。

「ふうぅんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!」

雷神トールは、歯を食いしばり、右腕を隆起させてこれでもかとミョルニルに力を入れている。

トールからは黄金の雷が放たれ、夏樹の肌を焼く。

だが、夏樹は気にせず片手で聖剣神鳴りの剣を握りミョルニルを受け止めている。

――人と神が対等に戦えるという異常な光景がここにあった。

雷神トールの力は全力だった。

巨人族をはじめ、数多の敵と戦った時と同様に、夏樹を殺すつもりで攻撃をしている。

だが、彼はぴくりとも動かない。

雷が肉体を焼こうとも、顔色ひとつ変えずに、淡々とした目で真っ直ぐ見つめているだけ。

トールは、ここに来て感情を消した夏樹に身震いした。

「――行くよ」

夏樹がつぶやくと同時に、一歩前に踏み出した。

たったそれだけの行動に、トールは三歩も押された。

しかも、ミョルニルを握っている右腕に、思わず左手を添えてしまった。

「ありえん」

単純な膂力で押し負けている。

全力の神が、人間に押されているのだ。

柄が短いミョルニルが恨めしい。もう少し長ければ両手で思い切り握りしめることができたはずだ。

思い返すと、雷神トールとミョルニルを相手にそこまで苦戦させたのは数える程度しかいない。

夏樹が少し腕に力を込めただけで、ミョルニルが悲鳴のような「きしみ」を上げた。

続いて、トールの身体がさらに押されていく。

これ以上後退してなるものか、と奥歯が砕けんばかりに歯を噛み締め、下半身に力を入れるも、夏樹の膂力のみで圧倒されていく。

トールがどれだけ踏ん張ったとしても、夏樹によって強制的に後方に押されてしまう。足は動いていないのに、トールの巨体ごと地面に線を描きながら後ろへ、後ろへ。

少しでも力を抜けば、夏樹の聖剣によって斬られ、そのまま吹き飛ばされるだろう。

雷神として、戦士として、このまま押し負けることはしたくなかった。

「ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

後先など考えることなくトールは叫び、一歩を踏み出す。

それでも夏樹はびくともせず、結果的に自分が後方に動いただけだった。

「そろそろ終わりにするよ、雷神トール」

夏樹が静かにつぶやいたと同時に、更なる力が加わるのがわかった。

そして、

「――な」

夏樹のひと押しによって、ミョルニルが砕けた。

「――馬鹿な」

ミョルニルは『粉砕するもの』を意味し、文字通り多くの敵を粉砕してきた。

ミョルニルを持つトールは、空の支配者たる最強の神と称えられる。

その雷神トールとミョルニルを持ってして、夏樹と聖剣神鳴りの剣に敗北したのだ。

「だが、まだだぁあああああああああああああああああああああああ!」

戦士であるトールは得物が砕けただけで、敗北を受け入れるような行儀のいい神ではない。

腕一本になろうと、それこそ首だけになろうと戦い続ける雄々しい神だ。

砕けたとはいえ、彼の手にはまだミョルニルが握られている。

槌としての役割は失ったが、鈍器としては問題なく使えた。

聖剣を振った状態になっている夏樹は無防備だ。

トールは砕けたミョルニルをそのまま少年に向かって振り下ろした。

夏樹の目には、迫り来るミョルニルが確実に映っていた。彼は、ミョルニルを目で追い、避けることはせず、不敵に笑った。

そして、常人ならば絶対にしないだろう、迫り来る雷神トールに握られたミョルニルの一撃に、頭突きで応対した。