作品タイトル不明
53「雷神様と喧嘩じゃね?」①
天照大神の用意した神域は、濃密な神力に満たされた自然に溢れた大地だった。
「おおー! 太陽がいつも見ているよりもでっかい!」
「素晴らしい! さすが太陽神天照大神殿の神域だ!」
どこまでも広い空間は、本当に一瞬で作られたのかと疑問になるほどだ。
草木の香りがし、遠くからは水のせせらぎの音がする。
「だけど、ちょっと暑いな」
まだ四月中旬のはずが、神域の中は七月半ばほどの暑さだ。
夏樹は学生服とワイシャツを脱ぎ捨てると、黒いTシャツ姿となる。
「それにしても、雷神トールと喧嘩かぁ」
「無理強いをしたようで申し訳ない。だが、この時代に君のような強者と戦えることを感謝したい」
「そりゃ光栄です。いやぁ、俺ってトラブルに愛されているっていうか、なんというか。基本的に平和主義なんだよ」
離れたところで、丸テーブルに座りお茶を啜っていた小梅と銀子が「嘘だ!」と叫んでいたが無視する。
ちなみに、この場にナンシーはいない。
ジャックとサタンと春子の帰宅を待つため、由良家に残っていた。
夏樹とトールの戦いを見守るのは、小梅、銀子、そしてリヴァイアサンだ。
「だから喧嘩は嫌いだし、痛いのも嫌いだ。なによりも――俺が勝つとわかっている喧嘩をわざわざするのが面倒くせえ」
「――ほう」
先ほどまでトールと戦いたくないと言っていた夏樹とは思えない強気な発言だった。
夏樹はもともと戦いに向いている性格では無い。
喧嘩だって、巻き込まれて必要に応じて強くなっただけだ。
今の強さも、理不尽に連れ去られた異世界から帰還するために強くなっただけでしかない。
「もちろん、地球のファンタジーがすごいっていうのは味わってみたいし、神様と喧嘩するのもちょっと楽しそうだ。でも、俺が勝つだろ?」
「良い挑発だ。だが、私は多くの戦いを経験して来た。その程度の挑発には乗らんよ」
「そりゃ残念。でも、俺が勝つよ」
「素晴らしい気迫だ。私が戦った巨人族でも君ほど強い者はいないだろう」
トールが雄々しい笑みを浮かべると、拳を力強く握りしめた。
「ご自慢のハンマーを使わなくてもいいの?」
「夏樹殿こそ、ご自慢の聖剣を披露してくれて構わないのだが?」
「聖剣さんはお留守だよ。あと、これから喧嘩するんだからフレンドリーに呼んでよ」
「ふふふ。では、夏樹と呼ばせていただこう。私のこともトールと呼んで欲しい」
「はいよ!」
夏樹とトールが笑い合い、そして合図もなく攻撃をした。
「ふぅんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!」
「だらっしゃぁあああああああああああああああああ!」
丸太のように太い腕から力が込められた拳が夏樹の顔面を捉えた。
同時に、夏樹の鞭のようにしなった蹴りがトールの股間を直撃した。