作品タイトル不明
52「雷神様の来訪理由じゃね?」②
組んでいた肩をそっと解いて、色紙を丸テーブルに置くと、夏樹はトールとしっかり距離を取った。
てっきり観光かなんかに来たか、他の神や魔族のように日本で暮らしているのだと思っていただけに、まさか自分と戦いに来ていたとは思いもしなかったのだ。
(聖剣さん! 緊急事態です! もしもーし!)
(……ただいま、営業時間外となっております。恐れ入りますがピーという発信音の後にご用件をお話しください。ぺー!)
(うぉおおおおおおおい! なにこれ!? どこで覚えたのこんなん? あと最後のぺーってなに!? ギャグやってないで、お力を!)
(現在、電話に出ることができません。ご用件のあるお方は一昨日きやがれ)
異世界になかったはずの知識を取り入れて夏樹を拒否する聖剣さん。
夏樹の脳裏には、気持ちよく眠っている聖剣さんの姿が見えた。
焦る、夏樹。
(ちょ、マジでやばいんだって! エマージェンシー! エマージェンシー!)
(はぁ? エマージェンシー? 誰よ、その女!)
(なーんで、留守番電話がわかるのにエマージェンシーがわからないんだよ!? とにかくお力を! さすがに雷神トールはやべーって! 腕丸太みたいだもん! あんな腕で殴られたら、お腹に穴が空いちゃうよ!)
(ふわぁ……うるさいわねぇ。穴が空いたら塞げばいいでしょう)
(できるけど、痛いじゃない!)
(知らないわよ……とりあえずまだ眠いから、後でね。こっちの魔力に身体がまだ馴染んでないんだから、自力でなんとかなさいな)
(あ、ちょ)
(ツー、ツー、ツー)
(おい、嘘だろ)
聖剣さんに助けを求めた夏樹だが、充電中のようで相手にしてくれなかった。
これはまずい、と冷や汗をかく。
「さあ、由良夏樹殿! 楽しい戦いをしようではないか!」
「ちょいまって! あのさ、トールさんと俺がガチンコでバトルしたら、向島市が地図から消えちゃうから! 悲しいイベントは嫌だなー!」
「ふむ。無関係な民を傷つけるのは私もよしとしない。だが、私は結界を張ることができず、神域も持っていないのだが……さて、どうしたものか」
よし、と夏樹はガッツポーズした。
神域を持っている神や魔族がいるいないの違いがよくわからないが、トールは器用なことができないようだ。
ならば、このままなんとか戦わない方向に話を持っていき――。
「おい、夏樹。今、天照大神からメッセージがあってガチバトルしても問題ない神域を用意してくれたようじゃぞ」
「大きなお世話だなぁ!」
「お礼はビールでよいそうじゃ」
「押し売りかよ!」
叫ぶ夏樹の肩を、むんず、とトールが掴み、白い歯を覗かせて笑う。
「さすが日本の太陽神殿だ。さあ、これで心置きなく戦えるな!」
「いやー、僕はあまり戦いたくないんですけどぉ」
「なぜだ? 戦士ならば、互いに強い相手を見つけ戦い、絆を深めるのではないのか?」
「……ねーよ。俺は戦士じゃねーし」
「おっと、失礼した。勇者だったな。だが、勇者も同じではないのだろうか?」
「……か弱い中学生に、ものすごい年上のトールさんが暴力を振るう、の?」
「うぐ……ならば対価を払おう。できる範囲であれば、なんでもさせていただこう!」
「え? 今、なんでもって言った?」
「うむ」
夏樹は、一瞬悩んだが、すぐにもじもじしながら尋ねた。
「北欧の神々のサインほしいなー」
「……それでいいのか?」
「あ、じゃあ、動画で俺宛てになんかメッセージも欲しいなー!」
「……ふむ。欲の無い少年だ。北欧の美女を連れて来いと言われるかと思ったが、ならばいいだろう! その願いを叶えよう!」
「いえーい!」
「夏樹……おどれは安いのぉ」
「夏樹きゅん……さすがにそれは、安すぎぃー」
「いやいやいや、北欧神話の神々のサインとか私も欲しいっすから!」