作品タイトル不明
50「リヴァイアサンが来るんじゃね?」③
「こーんにちはー! 魔界で七つの大罪の嫉妬を司る魔族をやってまーす! リヴァイアサンでーす! リヴァ子って呼んでねー!」
由良家の茶の間で、リヴァイアサンは鼻にティッシュを詰めた状態で仕切り直すように自己紹介をした。
「……とても媚び媚びっすね。ここまで来ると清々しいといいますか。見ていて痛々しさがないのでいっそ好感さえ持てるっす」
「銀子はこやつが取り繕っておる姿しか見とらんからそう言えるんじゃが。無理して高い声出して、媚びとる姿は、素を知っているもんからすると痛々しすぎるわい」
「しかし、なんといいますか、リヴァイアサンっすか。これまた大物が来てしまいましたっすねぇ。ただ、個人的にはなぜか好ましい香りがするんっすけど」
「銀子……おどれも大概おかしなやつじゃのう。じゃが、銀子的には好きじゃろ。こやつは、なんじゃったか……男の、娘とかいうよくわからん生物じゃ」
「――男の娘っすか!?」
くわっ、と目を見開いた銀子の圧に、リヴァイアサンがびくっと震える。
銀子は舐めるように、少女のように可愛らしい少年を上から下までじっくり眺めた。
「……リアル男の娘っすか。いやー、たまんないっすねー! しかし、美少女すぎて銀子さん的にはちょっと難しいっすね」
「なにが難しいんじゃ」
「なんといいますか、このような言われなければわからない男の娘じゃなくてっすね。夏樹くんみたいに可愛い顔をしているけど男の子ってわかるじゃないっすか。そんな子が女の子の格好をして、あれ? ってなる感じがたまらないというか、尊いというか。わかりますよね?」
「わーかーらーんーわー!」
「僕はわかるかなぁ。夏樹きゅんとか一登くんとかちょっと可愛い系男子に可愛い下着とミニスカート履かせたいなー」
「わかるっすぅー! あー想像だけでご飯三杯いけるっすわー!」
「こ奴らきんもー! きんもー!」
理解し合ったように硬い握手をする銀子とリヴァイアサンに、小梅はドン引きだ。
ナンシーは苦笑しながら、お茶をそっとリヴァイアサンの前に置いた。
「あ、どーも」
「いえいえ」
優しげな笑みを浮かべるナンシーに、リヴァイアサンがぺこりとお辞儀、ナンシーも笑みを深くする。
「んで、おどれはなにしに来たんじゃ。最近じゃ、サタンやすさすさやマモンマモンなんかで鬱陶しいんじゃが」
「サタンは小梅たんの身内じゃーん」
「……そのふざけた呼び方をやめんとぶっ殺すぞ」
「やってみやがれ。ひき肉にすんぞ」
「……めっちゃ声低っ!」
小梅相手だとつい素が出てしまうリヴァイアサンに、銀子は驚きを禁じ得ない。
魔族のくせに天使のような可愛さを持つリヴァイアサンだが、地声はハスキーボイスだ。
きっとボーイッシュな格好をしても似合うだろう。
「もう一度聞くんじゃが、おどれは何しに人間界に、いや、由良家に来たんじゃ? おどれのような強い魔族がほいほい人間界に来るとか、まったく魔界はなっとらんのう」
「……魔界のトップがダンス教室に通いに来ているんだからー、僕らに文句を言われてもさー。トップが緩々じゃーん」
「…………あのおっさんもぶっ飛ばさんといかんのう」
「にしてもさ、小梅たんはいつのまにそんなふた昔前の不良みたいな言葉遣いしてるの。数世紀前は、お嬢様全開であらあら、うふふ、こんにちは小鳥さんとか言ってたのに」
「ちょ、リヴァ子さん、その話詳しく! 小梅さんの過去を! ぜひにっす!」
「言わんでええ! これだから、昔の知り合いと会うのは嫌なんじゃ。つーか、おどれとは数十年ほど前にも会っとるじゃろう!」
「そだっけー? ま、いいや」
小梅はあからさまにホッとする。
どうやら彼女にとって、知られたくない過去がひとつふたつあるようだ。
銀子とナンシーはものすごく気になっているようだが、追求して小梅が臍を曲げても困ると思っているので、深く聞けないでいる。
「で、これが最後じゃ。なーにーしーにーきーたーんーじゃー!」
リヴァイアサンは頬を、ぽっ、と赤らめた。
「夏樹きゅんのお嫁さんになりに来ましたー」
次の瞬間、魔剣と光の槍がリヴァイアサンの頭と腹に突き刺さった。