作品タイトル不明
間話「爆発すればいいんじゃね?」
七森千手は、再び向島市から離れて神奈家を訪れていた。
きっかけは神奈征四郎からSOSがあったからだ。
神奈征四郎は、青山銀子に一族に伝わる魔剣を奪われたことをきっかけに、婚約破棄、次期当主の地位剥奪の上に、家とも縁を切られ復讐者となったのだが、なんやかんやあって友人になっている。
現在は、魔剣の代わりに素盞嗚尊から十束剣と月読から名のない神剣を譲られて、院に所属する名家の中で急に名を上げていた。
また、征四郎自身が図らずとも、背後に神が、しかも素盞嗚尊と月読命がいると認識されてしまっている。たった数日だが、霊能界隈では有名人になった。
ついでとばかりに、元婚約者と腹違いの弟に「ざまぁ」をする形になってもいる。
現在は、しばらく心配をかけた母に親孝行した後に、向島市に戻ってくると言っていたのだが、千手に急にSOSが来たので慌てて電車に飛び乗ったのだ。
「なんだこれ?」
しかし、神奈家にたどり着いた千手の目の前には、
「征四郎様、お背中お流しします! さあ、お風呂に参りましょう!」
「お姉ちゃんばっかりずるーい! 私も征四郎おにいちゃんのお背中流すぅー!」
「い、いや、軽く汗を流すだけなので、自分で」
ラブコメを繰り広げる征四郎と、一回り年下の少女たちだった。
「――友人からSOSが来たから完全装備で駆けつけたら、なんかラブコメしていた件。爆発すればいいのに」
ラノベタイトルのようなことを呟き、誰かに説明を求めたいと思っていた千手の隣に、いつの間にか眼鏡をかけた少年がいた。
少年は眼鏡をくいっ、と指で押すと、どこか大人びた笑みを浮かべた。
「征四郎おじさんは、僕の母神奈朱美――つまり、征四郎おじさんを捨てて僕の父神奈礼央と結婚した女の妹たちとラブコメを繰り広げています」
くいくいっ、と眼鏡を触る少年はやれやれ、とばかりに肩をすくめるジェスチャーをした。
「もしかして、君は」
「はい。愚かな両親の子供、神奈義政、五歳です」
「……随分、大人びた子だな」
「よく言われます」
「つーか、マジか? あの子たちは、神奈朱美の……えっと、風間家のお嬢さんたちか。結構歳が離れているようだけど」
「風間まつりさんは十六歳。風間柚子さんは小学生のようです」
「……マジかぁ。風間家から送られてきたってわけか」
「いえ、そうではなく、もともとまつりさんは征四郎おじさんガチ恋勢だったのです。姉との婚約が決まっていたので泣く泣く諦めていたのですが、先日のようなことが起きたのでこれ幸いと押掛け女房にきたそうです。柚子さんは、お兄ちゃん大好きなノリですね」
「君、本当に五歳!? 中身、転生者とかじゃないよね!?」
「……難しい話はわかりません。僕、五歳なので」
「いやいや、今まで難しい話してたじゃん。決して五歳児がしない話をしていたじゃん!」
「はて?」
くいくいっ、眼鏡を動かす義政少年はとぼけた様子を見せる。
こんな五歳児がいるか、と思う反面、両親を反面教師にしたのであれば可哀想にと思う。
「あ、七森! 来てくれたんだな! すまないが、助けてくれ。年頃の少女たちがぐいぐいとくるので困っているのだ!」
「……ふざけんな馬鹿野郎! SOSだから慌ててきたのに、このハーレム野郎! お前なんて、爆ぜちまえぇええええええええええええええええ!」
「七森ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
羨ましくなんてない。泣くもんか、と顔を上げてダッシュで去って行く千手。
背後から助けを求める征四郎の声と、「きっといいことありますよ」と慰める義政少年の声を聞きながら、千手は再び電車に飛び乗ったのだった。