作品タイトル不明
46「様子を見に行くんじゃね?」②
「まさか男の娘と出会うことができるなんて、たまんないね!」
「ねー!」
感動する一登と、同意する夏樹。
リヴァイアサンは「どやぁ」とドヤ顔し、都は「……男子って」と呆れたように嘆息した。
「あー、ごほん。男の娘様であるリヴァイアサンさんはさておくとして、どうだった?」
都の冷めた視線に気づいた夏樹が、咳払いして話を切り替える。
夏樹が一登に問いかけたのは、兄の葬儀に関してだ。
「両親は悲しんでいるけど、ほっとしてもいる感じかな。親戚も少し来ていたけど、クソ兄貴に手を出されたような人もいたみたいで口でこそお悔やみを言ってくれるけど、せいせいしたって思われていたと思うよ」
「……あいつは本当になんというか」
「僕は兄貴と関わってもいいことなんてないって接触は最低限にしていたからね。もっと向き合って注意していたら――ううん。もう今さらだね」
「どうせ聞きやしなかったさ」
「そう、だね」
冷たい言い方をしたが、好き勝手している優斗が一登の言葉を聞いたとは思えない。
両親の怒りの声でさえ届いていなかったのだから、一登が兄をどうこうできたとは想像できなかった。
夏樹だって、小学校の頃は、幾度となく優斗に文句を言ったし、態度を改めるように言ったことがある。
当時は優斗のしでかすことに巻き込まれ「勘弁してくれ」と泣きそうになったのがきっかけだったが、それでも優斗はなにも変わらなかった。
むしろ、「僻むなよ」と変な勘違いをしていたし、取り巻きの少女たちにキツく当たられたこともある。
「昔から自分の都合のいいようにしか物ごとを受け取らなかったし、自分の好きなようにしか生きてなかったじゃん。最後は、力を得て俺と一登を殺そうとしたんだし、根っこが腐ってたんだよ」
「……うん。思えば、去年、僕の名前を騙って怖い自由業の方の娘さんに手を出した時は本当に愛想が尽きたよ。まさか、事務所に攫われることになるなんて……夏樹くんが乗り込んでくれなかったから、今頃、東京湾だったね」
「あったなぁ。自由業の方たち怖かったもん」
思い出話のように語り合う夏樹と一登だが、内容が内容なだけにリヴァイアサンと都が顔を見合わせて「うわぁ」と言っていた。
一年ほど前、優斗は一登の名前を騙って自由業の方の娘さんに声をかけた。一線こそ超えていなかったが、その子は優斗にのめり込んでしまい親が出てきてしまったのだ。
だが、名前を一登と偽っていたので、拉致られたのは一登だった。
そのことを知った夏樹は、警察よりも先に自転車に乗って単身事務所に乗り込んで大暴れをした。
下っ端を全員ぶっ飛ばし、中堅の方々も負傷しながら倒し、幹部っぽい方々を半分倒したところで力尽きた。
夏樹の奮闘と、優斗が偽って一登と名乗ったことを知った自由業の方は反省し、謝罪してくれた。優斗は名前だけではなく、年齢も偽っていたようだ。下っ端が中学生を拉致ってきて、驚いたのは自由業側だった。しかも、中学生がすぐに殴り込んできたので二度驚いたのは言うまでもない。
その後、夏樹をとても気に入った自由業の方々が二度と夏樹と一登とその家族には手を出さないと約束し、治療費と慰謝料を少し包んでくれた。
ただし、優斗がこれ以上娘に手を出したら許さないとも言われていたので、翌日、夏樹は本気でキレて優斗をぶん殴った。
優斗も自由業の方は怖かったようで、手を出すことなくその少女からは離れたようだ。
「もう一年か。というか、夏樹くんて……異世界に召喚される前も勇者だったね」
「なんだよそれ」
「勇気ある者。勇ましい者。だから、勇者だよ」
「やーめーてーよー。なんか照れるー」
一登に褒められて、照れくさそうにする夏樹に、リヴァイアサンと都は揃って引いていた。
「……うん。ふつー、一般人が事務所殴り込みとかしないから」
「……力がなくてもあっても非常識なんですね」