作品タイトル不明
44「憑いてきちゃったんじゃね?」
「――素晴らしい。由良夏樹殿は、若くして素晴らしい戦士だと聞いていたが、素敵な奥様の支えがあってこそだったとは」
「あら、いやですわ。もう、主人ったら、私がいないと本当にダメでして」
由良家では雷神トール相手に銀子が絶好調だった。
夏樹の人間関係を知らないトールに、銀子は刷り込むように捏造を続けている。
最初こそ、「あれー? そうかなぁ?」という微妙なラインを攻めていたのだが、ノリに乗ってしまい、気づけば映画三本分ぐらいの超大作となってしまっていた。
本人も「やべぇ」と思っているのだが、一度動き出した口が止まる気配はなかった。
「いいんですか、小梅さん」
ずずず、とお茶を飲んで煎餅を齧っている小梅にナンシーがそっと尋ねてきた。
ナンシーは、小梅と銀子が揃って夏樹とくっつくことを期待しているが、少々「おいた」が過ぎるギンコを心配しているのだ。
またいつもならツッコミを入れるはずの小梅がなにも言わないことを案じてもいた。
「……作り話が壮大になりすぎて、むしろ痛々しすぎるんでツッコミをする気も起きんのじゃて」
「ああ、そっちですか」
少しの安心と、呆れを混ぜた様子でナンシーが納得した。
ただ、グレイ的にも、いくら銀子が話しやすいとはいえ、宇宙人からしてもファンタジーな内容を「ほうほう」と真剣に聞いているのはいかがなものだろうかと思う。
おそらく銀子もツッコミ待ちだったのだろうが、思いがけず受け入れてしまって止まらないようだ。
ときどき、ちらり、とこちらを見ているのは、間違いなく助けを求めている。
小梅とナンシーも少々調子に乗りすぎてしまった銀子への良いお灸だと思って、あえて何も言わずにいた。
「――なんじゃと?」
「どうしました、小梅さん?」
何かに気づいたように顔を上げた小梅に、ナンシーが心配そうな顔をする。
饒舌だった銀子と、話を聞いていたトールも動きを止めた。
ナンシーには何も感じないが、神や天使、霊能力者たちに何か感じ取れるものがあったのかもしれない。
「よりによってアレが来よったか。夏樹も、異世界に召喚されるとか、あんなのに目を付けられるとか、呪われているんじゃないかのう」
そんなことを言いながら、小梅は煎餅を咀嚼するとお茶で流し込み立ち上がった。
少し遅れて、
「ただいまー」
夏樹が帰宅した声がした。
「いいねー、いいねー! こういうザ・日本の一般家庭みたいなお家って好きだなー! よーし、ここを本拠地とするー!」
夏樹以外に、テンション高めな可愛らしい弾けるような声が響いた。
小梅が立ち上がると、玄関に続く廊下を軽く蹴った。
「まずお母様にご挨拶をしないとねー。お嫁さんになるリヴァ子です。末永くよろし――ぶべらんっ!?」
「なんでおどれが夏樹と一緒にいるんじゃぁあああああああああああああああああああ!」
少し遅れて玄関にナンシーたちが向かうと、小梅の蹴りが見知らぬ少女の顔面に突き刺さっていた。