軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

43「月読先生と絶望の神じゃね?」

「――勝手に生徒と親密になられるのは困りますね。最近、保護者も子供に関して神経質になっている時代なのですよ」

廊下を静かに歩いてくるのは、月読命だ。

グレーのスーツを着こなした白髪の男性は、いつも穏やかな表情を浮かべているのだが、現在の彼の顔に表情はない。

どのような感情を抱いているのかわからぬほど、彼は能面のような無表情を貼り付けていた。

「まさか私の領域に、姿を現すほど愚かだとは思いませんでした。彼女はこの学校の生徒です。少々問題のある子ですが、貴様たち神もどきの餌食にはさせませんよ」

「これはこれは! 月読命殿! 我々に呪われ、肉体を蝕まれている哀れな神よ! あなたはいつも後手に回っているっ! 力を取り戻すために数百年ほど眠りについたらいかがかな?」

校舎を震わすほど大きな声を出す絶望の神だが、月読によって彼の視界に映る範囲は独自の領域となっているため、彼の声が他の生徒に聞かれることはない。

「相変わらずふざけた喋り方ですね。まあ、いいでしょう。私だって寝ることができればゆっくり眠りたいのですが、その間に貴様たちがのさばるでしょう」

「はっはっはっ! 無論だとも! それにしても、神々は面倒だ! あなたのように必死に私たちを殺そうとする神もいれば、興味を持たない神もいる。特に日本は活動がしやすくて良いね!」

挑発とも取れる絶望の神の言葉を、月読は気にせず流した。

事実、新たに生まれた神が古き神々を排除して新たな神話を作ろうとしていることを知っても「勝手にやれば」と脅威に思わない神々や魔族もいる。むしろ、半数がそんな意見だ。

他の神だって、暇つぶしに関わろうとする神や、仲間になって新たな神話で上位の神になろうと企む者もいる。

月読も、最初こそ興味がなかったが、伊邪那岐命と伊邪那美命に命じられてとりあえずどの神でもいいから捕縛しようとしたのだが、結果的に痛い目を見ている。

以後、月読は完全に新たな神々を敵視している。

「日本の神は自然から生まれていますからね。自然は、貴様たちなどに興味はないのですよ」

「手厳しい。愛の女神に聞きましたがっ! どうやら由良夏樹くんは異世界とやらで勇者をしていたそうですね」

「――貴様」

能面のような月読に、初めて感情が宿った。

生徒であり、興味深く思っている少年が巻き込まれることを月読は望んでいない。

もし、彼を無理やりこのくだらない古き神と新たな神との諍いに巻き込もうとするならば、上の命令に反してでも新たな神々を滅ぼすだろう。

「おっと、そんなに怖い顔を! しないでください! 我々は、地球を支配したいですが、あなたたちのようにこの星だけでは満足しません。異世界があるというのなら、異世界にも神として君臨したい!」

「なんと傲慢なことを。貴様らは神ではない」

「そちらこそ傲慢だ! お前たち古き神は、新たな神を認めていない! 私は、それが! とても! 許せないのだ!」

「人間を拐かし、争いを起こす事を躊躇わぬどころか、ゲームのように楽しんでいる貴様たちは神ではない。神もどきだ」

「言ってくれる!」

睨み合う月読と絶望の神。

「……私は確かに弱体化していますが、貴様程度を殺すのに問題はありません」

「ほう! 見逃してくれると?」

「私と貴様が戦えば、校舎に被害が出ます。貴様は気にしないだろうが、私は気にするのですよ」

「……解せん。家畜の如く生まれてくる人間になにを気を遣う?」

「貴様らの人間を軽視する言動が、神ではないと言っているのだ。失せろ。私がまだ我慢できている間に」

月読が絶望の神をまっすぐに睨み続けると、絶望の神はゆっくりと姿を消していく。

「次はない。ついでに、お前たちの親玉にも言っておけ。人間を軽んじれば、泣くのは貴様らだ、と」

「やれやれ。綾川さんが目をつけられるとは……夏樹くんの周囲はトラブルばかりですね。生徒を人質に取られずによかった」

神の気に当てられて気絶していた杏を抱き抱えると、一瞬で保健室に移動し、ベッドに寝かせる。

青い顔をする杏の顔の上で、軽く手を叩くと、顔色がよくなっていった。

「君は、誰にも会っていません。なにも覚えていません。いいですね」

返事は求めていない。

月読は絶望の神とコンタクトを取った杏に呪いをかけて、ここ数分のことを忘れるように処置した。

「……さて、これで綾川さんはいいでしょう。なぜ新たな神々が接触しようとしたのかまでは不明ですが、仕事終わりに父と母に報告ですね。はぁ。私は教師の仕事で手一杯なんですけどねぇ」

そんなことを愚痴りながら、月読は保健室から出て職員室に戻るのだった。