作品タイトル不明
42「なんとか帰路じゃね?」②
「いえーい! みんなのアイドル、リヴァイアサンだよー!」
「……リヴァイアサンって、まさか、七つの大罪の」
「しかも男の娘です」
「――っ、なんですって!?」
横チェキしながら現れたリヴァイアサンは、なぜか黒いマスクを身に着けていた。
夏樹と会った時は素顔を見せていたのだが、なにか問題でもあるのだろうかと疑問を浮かべた。
「……待って。その声、どこかで――っ、もしかして『僕っ子小悪魔リヴァ子ちゃんチャンネル』のリヴァ子ちゃんですよね!?」
「なにそれ!?」
「……ふっ。やっぱり登録者数百万人越えのオーラはわかっちゃうかー。しかたがないよねー。どっかの農家と違ってー、僕はー、ほらー、ファンが多いからー!」
「えぇ……嘘ぉ。しゅごぉーい」
夏樹も素直に感心した。
まさかリヴァイアサンが登録者数百万人越えの動画配信者だとは誰も思うまい。
サマエルとマモンが最近登録者数が伸びて三万人超えである。それでもすごいと思うのに、桁が違う。
「いや、待って。つーか、お前ら魔族暇すぎるだろ! 動画配信とかしてるんじゃねーよ!」
「なーに言ってんの、夏樹きゅん。僕は古き良き魔族として人間たちをたぶらかしているのさ! この間なんて、めっちゃお金もらったからねー! 今月稼いだお金は全部、慈善団体に寄付してやったよー!」
「え? 急にいい子?」
「いい子っていうか、僕って古の魔族の一柱だから、資産ならめっちゃあるしー。金じゃねーんだ。チヤホヤされてーの!」
「ふ、深い」
よくわからないが、深いことを言っていると思う。
「あ、もしかして、顔バレがまずいからマスクしてるの?」
「うん。サタンは別にいいんだけど、ルシフェルがうるせーんだよー。あいつー、昔さー、お漏らししたときにおしめ替えてやったことだってあるのに」
「まさかの過去!」
「ま、それはいいから、早く夏樹きゅんの家にいこーよー。僕ね、ずっと楽しみにしていたんだー」
「なにを?」
「クソ小梅・ルシファーだよ! あのクソ女にぎゃふんと言わせてやるんだー!」
夏樹は目を丸くする。
まさかルシフェルだけではなく、小梅とも知り合いだったとは。
「あのクソ小梅ぇー! 自分がちょっと足の長い美人だからって、僕のことを侮辱しやがってー! 絶対にゆるせねぇー! なにが短小野郎だー! 僕は受けだから、小さい方がいいんだよぉ!」
「……あ、これ、絶対揉める。イベントさん、おかえり! でも、こんな意味わかんないイベントはいらなかった! あ、でもイベントさんが今まで持ってきたイベントってみんな意味わかんないよね! あはははは!」
校門の前でぎゃーぎゃー騒ぐ夏樹とリヴァイアサンは注目の的だった。
悪い意味で目立ちまくっているふたりに気づき、都はそっと距離を取る。
その後、すぐに校舎から月読がダッシュしてきて、三人は指導室に連行されたのだった。
■
「……なにあれ」
綾川杏は、校門の前で可愛らしい少女と、清楚な少女と一緒にいる夏樹を見て苛立った顔をして爪を噛んだ。
自分には笑顔ひとつ向けてくれない夏樹が楽しそうで、イライラする。
「杏悪くないもん。あいつが悪いのに。死んでいなくなったんなら、もういいじゃん」
まったく反省していない言葉が自然と出てくる。
優斗が死んだことで、杏はすべてが終わった、元通りになると思っている。
杏の思う元通りとは、まだ夏樹と出会ったばかりの幼少期のように兄と妹として楽しくやっていけると思っているのだ。
彼女は気づいていないのか、気づかないようにしているのかわからないが、夏樹と親しかったのは数ヶ月で、その後、何年も夏樹や春子に罵声を浴びせ続け家庭を崩壊させている。
仲が良かった時間のほうが短いのだ。
たとえ、優斗の魅了による影響があったとしても、夏樹たちにしたことは関係ない。
せめて、謝罪があれば違っただろうが、悪いと思っていない杏は謝罪をする必要を感じていなかった。
「お嬢さんっ、ごきげんよう!」
陽気で甲高い男の声が響き、思わず振り返る。すると背後には、燕尾服を着た若い男性がいた。
本来ならば、不審者だと逃げるか叫ぶかするべきなのだが、不思議と杏は彼に魅入ってしまった。
「君にはっ、素質がある! 私がっ、素敵な力を授けよう! 君のお兄さんを売女たちから取り戻すことのできる。素敵な素敵なっ、力さっ!」
「本当?」
「本当だともっ! お近づきの印に、名乗ろうではないか。私は絶望の神! そうだな! 愛の女神が愛ちゃんならば、私のことはぜっくんと呼んでくれたまえ!」