作品タイトル不明
40「ビッグネームの予感じゃね?」
「なーんか、夏樹きゅんも大変だねー。あんなブスに付き纏われてお兄ちゃんとか呼ばれるとか、どんな拷問?」
「あははははは……異世界で勇者業するよりはマシだよ」
「割とガチで夏樹きゅんが異世界でどんな生活していたのか気になりまくってるんですけどー」
リヴァイアサンは夏樹の過去に興味津々だ。
さりげなく杏のことをブス扱いもしていた。
「はいはい、そこまでです。そろそろ午後の授業が始まりますので、教室に戻りなさい」
「はーい」
「いえ、リヴァイアサンはここにいなさい。というか、あなたはどこのクラスに行こうというのですか。まったく」
夏樹よりも早く良い返事をして校舎の中に入ろうとしたリヴァイアサンの襟首を、月読が掴んだ。
立ち上がったリヴァイアサンの身長はとても低く、百四十センチないくらいだ。
夏樹も年頃の平均身長に少し届かないくらいではあるが、リヴァイアサンはまだ小さかった。
そんな彼が、最強の海の怪物だろうと誰が思おうか。
「ところでさー、夏樹きゅん」
「はい?」
「さっきのクソブスだけどー、よかったら僕がなんとかしてあげよっかー?」
「なんとかって、どうやって?」
「頭に魔力流し込んでぐっちゃぐちゃにしてあげればー、夏樹きゅんのことなんてなーんにもわからなくなるよー」
「いやぁ、さすがにそれはちょっと。親御さんにも迷惑かかるし」
夏樹としては、杏は鬱陶しいが、綾川誠司のことを考えると手を出すことが躊躇われる。
杏はさておき、誠司は夏樹にとって良き父として接してくれたし、良き家族だったのだ。そんな彼に、壊れた娘の世話をし続ける人生を送って欲しくない。
「なんていうかー、夏樹きゅんっておもしろいねー。迷惑かけてくる奴なんて、片っ端から壊しちゃえば良いんだよー。あんなブスが夏樹きゅんの人生にいてもいなくてもなんも影響がないっしょ。んじゃ、結局、いないのも同じじゃん」
「そこまでにしなさい。リヴァイアサン、私の生徒につまらないことをしようものなら、全力で相手をしましょう。殺せはしないでしょうが、数百年ほど動けなくなるくらい叩きのめすことはできるんですよ」
「はいはい。まったく月読っちは冗談がつーじねーなー!」
月読は殺気も敵意も出さず、感情を動かすことすらしなかったが、彼の言葉は冗談には聞こえなかった。
リヴァイアサンのどこか悪魔らしい声音も変化し、元の人懐っこい感じに戻っている。
(やっぱり月読先生は底がわかんねー。すさすさはシンプルだったけど、月読先生はマジでやべぇ。あと、リヴァ子さんもかなり強いっしょ。サタンほど力が把握できないわけじゃないけど、異世界の魔王軍全員集まっても勝てないんじゃね。いや、俺に勝てなかったから、リヴァ子さんに勝てるはずがないんだけど)
マモンも強かったが、ふたりはそれ以上だ。
リヴァイアサンも同じ七つの大罪でも、力量差はあるのかもしれない。
内心、他の七つの大罪の魔族がどのような強さを持っているのか、興味を覚えてしまう。
「――夏樹くん、言い忘れていましたが」
「なにかありましたか?」
「学校から帰宅したら、北欧の雷神トールがお家で待っていますよ」
「なんで!?」
「彼は武人ではありますが、どこかのクソ愚弟や、ぬらぬら言い出した妖怪よりはまともですので、きっと大丈夫でしょう。向島市に入る際に、私にも手土産を持ってきましたので礼儀もありますね。ただ、なぜまんじゅうとどぶろくだったのか不思議ですが。まあ、悪い神ではないので相手をしてあげてください」
「ていうか、雷神トールって、ビッグネームじゃん! リヴァイアサンよりも全然ビッグネームじゃん!」
「あー! そういうこと言っちゃう!? ゴッド圏なら僕だって有名なんだよー!」
つい素直な感想を言ってしまった夏樹に、可愛らしくリヴァイアサンが頬を膨らませた。
「月読先生!」
「なんですか?」
「俺、早退します! トールさんのサイン欲しいので色紙と額縁を買わなきゃいけないんで!」
「駄目に決まっているでしょう!」