作品タイトル不明
38「月読先生のお話じゃね?」
「やだなー。月読っちはいつも真面目なんだからー」
「他の神々や魔族が不真面目すぎるだけです。それよりも、学校は関係者以外立ち入り禁止ですので、早々に出て行ってくださいね」
「僕は夏樹きゅんの妻ですー! 身内ですー!」
「夏樹くんはまだ未成年なので結婚できません」
「くっ、やるなー、月読っち」
「だから、そのおかしな言い方をやめてください。以前、愚弟が同じように呼んだ時には顔が腫れ上がるほど殴打しましたが、あなたもされたいですか?」
「あ、あははは、やだなー。月読命様」
「……わかってくださってよかったです」
月読とリヴァイアサンは軽口を叩き合える関係であることは理解できた。
「ところで、月読先生。どうして、屋上に?」
「そうでした」
こほん、と咳払いをして月読は改めて夏樹に話しかけた。
「リヴァイアサンの侵入もそうですが、夏樹くんが久しぶりの学校がどうだったのか気になりましてね」
「ご心配ありがとうございます。勉強も問題なくついていけていますし、クラスメイトの顔と名前を忘れちゃっていますけど、声をかけてくれたクラスメイトはいい奴ばかりです」
「学業に関しては安心しました。クラスメイトに関しては、頑張って覚え直してくださいね」
リヴァイアサンが「うわー、クラスメイトの名前を忘れるとかー、うん、あるなー」と何か心当たりがあるようにつぶやいている。
夏樹としては、数年ほど異世界で殺伐としていたせいでクラスメイトの名前も顔も忘れている状態だが、特別仲良くしている友人は一登くらいだったので、「まあいいか」とも割り切っている。
ただ、これからクラスメイトたちと交流していくつもりはあるので、少しずつ歩み寄っていこうと考えていた。
「ところで……お母様からお聞きするでしょうが。今日、三原優斗の葬儀が行われました。担任と私も先ほど出席してきたのですが……」
なにやら月読は歯切れが悪く、言葉を選んでいる。
夏樹に言うべきかどうか悩んでいるようだった。
「先生?」
「葬儀は、ご家族と親戚だけの静かな親族葬でした。彼の友好関係を考えると、誰かしら押しかけるのではないかと思っていたのですが……本当に静かでした」
「そっか。一登はどうしてましたか?」
「元気……というと聞こえが悪いかもしれませんが、彼はしっかりしていました。兄の死をすでに知っていましたし、ご両親ほどショックはなかったようです」
「おじさんとおばさんが心配だなぁ。あんな奴でも家族だったんだし」
「そうですね。大変気落ちしているように見られました。ご挨拶はさせていただきましたが、気丈に振る舞っているようにも見えました。ただ、少しだけ安心しているようにも」
「……仕方がない、ですよね」
「ええ」
三原のおじさんとおばさんは、優斗の爛れた男女関係に頭を悩ませていたことを知っている。
幾度となく注意していたのだが、優斗の行動は最後まで改善されることはなかった。
そんな優斗が死んだのだ。大きな問題を起こさないで済んだことに、ホッとしてしまっても仕方がないことだと思うし、誰にも責めることなどできないはずだ。
実際、優斗は『愛の女神』によって力を与えられ、夏樹だけではなく実弟である一登まで殺そうとしたのだ。結果的に、力の過剰解放により内側から破裂するという惨めな死に方をしたが、それだって自業自得だった。
夏樹にとって、優斗は腐れ縁の関係であるが、正直に言おう。死んでせいせいする。
夏樹ほど極端な感情は抱かないだろうが、ご家族も思うところはあるだろう。
「一登くんは明日から学校に来るそうですから、友人として支えてあげてください」
「もちろんです。一登は俺の親友で、幼馴染みですから」
夏樹が快諾すると、月読が微笑む。
「あ、誰か来るよー」
リヴァイアサンがそう言ったと同時に、屋上の扉が力一杯開かれたのだった。