軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

37「やっぱビッグネームじゃね?」②

ごくり、と異世界帰りの勇者であり、思春期真っ只中の中学生の由良夏樹は生唾を吞み込んだ。

「――こんなに可愛い子に……ついている、のか? まじか? いや、騙されるな。相手は七つの大罪の魔族であるリヴァイアサンだ。惑わされるな! 勇者由良夏樹! 異世界でどれほど誘惑を無視してきたと思っている! 女性に手を出さないから男色と疑われ、少年からおっさんまで送り込まれてきたからぷっつんして暴れた過去を思い出せ。だめだ、異世界にだって男の娘はいなかった。助けて、聖剣さん!」

「えっとー、あのね。とても言い辛いんだけどー、全部声に出てるからー。あと異世界やばいねー」

「ああっ、俺のお馬鹿さん!」

夏樹にとって、七つの大罪の魔族だろうと、超ビッグネームであるリヴァイアサンだろうと、些細なことだった。

問題は、どこからどう見ても美少女であるリヴァイアサンさんが男の娘であるということだ。

夏樹だって健全な男の子だ。異世界帰還後はさておき、異世界召喚前はそれなりに思春期関連のものを嗜んだことはある。その中に、男の娘もあったことは否定しない。

しかし、こうして目の前に本物の男の娘が現れるとは、思いもしなかった。

夏樹にとって、異世界に勇者として召喚されるよりも、稀有な出来事である。

「……いや、異世界帰りの勇者は騙されない。なぜ中学校の制服を着ているのか、縞々のハイソックスがめちゃくちゃ似合うとかいろいろツッコミどころはあるけど、こんなに可愛い子が男の娘なはずがない!」

「そんなに褒められると照れちゃうなぁー」

てへへ、と頬を赤く染めて身体をくねらせる仕草も、あざといのに可愛らしかった。

「――神よ。試練なのですか?」

ちげーよ、と遠くから聞こえた気がした。

「ゴッドは関係ないからー。あのおっさん、こっちを生み出すだけ生み出しといて放置しやがってー。児童相談所が神話の時代にあったら駆け込んでるからねー!」

「……うん。それはゴッドが悪いね」

「でしょー! せっせと海の怪物食べて一生懸命育ったんだよ。たまに喧嘩売ってくる魔族も神もぱっくんして気づいたら立派になってましたー! えへん!」

真っ平らな胸を張るリヴァイアサンに夏樹は拍手をした。

そして、素朴な疑問ではあるが、マモンもそうだが、七つの大罪はこんなにも個性が強いんだろうか、と考えてしまう。もしかしたら、個性で選んでいるのではないかと疑いたくなった。

「えっと、リヴァイアサンさんが」

「長いからリヴァ子でいいよー!」

「リヴァ子でいいの!?」

「いいの、いいのー! それで、なーに?」

「なんで日本の、しかも向島市においでになったのでしょうか? 観光?」

「観光もありだけど、目的は君だー。由良夏樹きゅん」

「――きゅん、だと?」

なんだろう、この胸のときめきは。

夏樹は息苦しくなった。

「マモンぶっ飛ばして、クソ素盞嗚尊もボコして泣かした夏樹きゅんに興味があってねー。ルシフェルちゃんも夏樹きゅんに関わるなーって、言ってたからこれで興味をもたねー魔族はいないでしょー。でもほら、魔族は力こそすべてな種族だから、ざーこどもはルシフェルちゃんにびびって動けないんだけどー、僕は全然そんなことねーからきちゃった!」

「そっかー、きちゃったかー。え? じゃあ、遊びに来ただけ!?」

リヴァイアサンは「ノンノン」と首を横に振った。

魔族らしい欲望に塗れた笑みを浮かべる。

「僕はねー、夏樹きゅんのお嫁さんになりにきましたー!」

「はぁああああああああああああああああああああああ!?」

「男の娘がお嫁さんだっていいじゃない」

「いえ、そこは特に気にならないっす」

「すごいねー! 気にならないんだー!」

「問題はリヴァ子さんが本当に男の娘かどうかです!」

「……なるほどー。それはそうだー。確かめる方法はただひとつ!」

「聞きましょう!」

「僕をお嫁さんにしてくれたら、初夜に確かめられるよ! ちなみに、前も後ろも未使用だからー、夏樹きゅん色に染めていいぜー!」

「…………ごくり」

「いい加減にしなさい」

ノリノリで話をしていた夏樹とリヴァイアサンの頭を月読が引っ叩いた。

「あいたっ」

「あー、月読ちん」

「その呼び方はやめてください。お久しぶりですね、リヴァイアサン。まさかあなたが向島市に来るとは思いませんでした。あなたのような大きな存在をスルーした天照大神はお仕置きです」

苦々しい顔をした月読が、やはりいつの間にか屋上にいたのだった。

(リヴァ子さんも月読先生も、気配なさすぎ! こっちの世界のファンタジーのほうが異世界よりもファンタジーでこわいよー!)