作品タイトル不明
32「情報収集じゃね?」②
「あ、やっぱり知ってるんだ?」
「そりゃ知ってますって。仮にも安倍さんのご子孫っすからね」
やはり霊能関係者ではない一般人にも有名な安倍晴明は霊能関係でも有名のようだ。
「夏樹くんたちが、安倍一門と遠野で喧嘩したっていうのも聞いてるっす」
「うわーお」
「そこはまあいいんすけど、なんで安倍円さんをそんなに気にするっすか?」
「いや、あのさ、安倍円が妖怪嫌いらしいんだけど」
「はいはい。それはめっちゃ有名っすよ。安倍家の直系はみんな穏健派なんすけどね。円さんだけは強硬派だか過激派だかわかんないっすけど、とにかく妖怪はぶっ殺そうぜ派っすね。聞いた話では、数年前にご友人を鬼に殺されたとか。まあ、しゃあないっすね」
「その友達っていうのが、由良夏樹って名前らしいんだ」
「……同姓同名っすか? いや、そんなことってありますかねぇ?」
さすがに、安倍円の亡くなった友人が夏樹と同姓同名であることに銀子は驚きを隠せないようだった。
「しかもさ、俺は京都に行ったことがないんだけど、無いはずなんだけど、夢で子供の安倍円くんと一緒に過ごすリアルな夢を見ちゃって」
「……だから夏樹はヒンディー語で叫んだのか。いや、なんでヒンディー語なんだよ。日本語で叫べよ」
サタンが呆れたように突っ込んだ。
夏樹自身、ヒンディー語で叫んだ理由はわからない。
勝手に口から出てきたのだ。
もしかしたら、前世はインドあたりにいたのかもしれない。
「……眠っている記憶が、なんらかのきっかけで蘇ることっていうのはあるっすからね。春子ママさんなら京都にいたのかどうか知ってるんじゃないっすか?」
「うーん。春休みにさ、中三になったら修学旅行で初京都だって話をしたんだよ。その時になんも言わなかったからなぁ」
「じゃあ、ただの夢じゃないっすかね。同じ名前の子が亡くなった話を聞いたから、ちょっと感情移入しちゃったんじゃないっすかね」
「そうならいいんだけど」
「あんまり難しく考えても答えが出ないならもやもやするだけっすから、考えないで忘れちゃったほうがいいっすよ」
「そうだね。うん。そうしようかな」
銀子は性格的に難しくものごとを考えてないような面があるが、こういう時には彼女のそんなところに救われる。
「個人的には、夏樹くんと安倍円くんが幼馴染みだったら……うへへぇ、おっと失礼。つい妄想が捗ってしまうっす」
「うわぁ」
「そんな顔しないでくださいって! 安倍円くんといえば、私たちの業界の中で『わからせたい子』として人気なんですよ!」
「……なにそれこわい」
「でも、いいっすね。あの冷たい感じの安倍円くんが夏樹くんにわからせられる日がくると考えるだけで、朝食は三杯いけますね」
ちょっとだけ安倍円に同情した。
「じゃあ、安倍東雲も知ってる?」
安倍円の兄として現れた、安倍家の安倍東雲。
彼の名前を出した刹那、銀子が表情を消した。
「銀子さん?」
「まさか、安倍東雲と会ったんっすか?」
「あ。うん。八つ橋もらった」
「悪いことは言わないっす。奴とは関わらないほうがいいっすから。安倍一門が院に属さず好き勝手やってるのは、歴代の当主がかなりの使い手だったからっす。現在の当主もなかなか人外みたいなこと言われているっすけど、安倍東雲は例外っす」
「例外って?」
「奴は化け物っす。夏樹くんが勝つとか負けるとかじゃねえんです。関わったら絶対悪いことが起きるんす。いいっすか、もう安倍一門と関わることはないと思いますけど、絶対に安倍東雲だけには関わらないでくださいっす」
「う、うん」
珍しく真面目に、いや、鬼気迫る様子で夏樹に詰め寄った銀子に、多くを聞くことができずただ頷くことしかできなかった。