作品タイトル不明
31「情報収集じゃね?」①
「おはようございまっす、夏樹くん――って、どうしたんすか? 滅茶苦茶顔色悪いっすよ?」
「おはようございます、銀子さん。夢見が悪くて、いや、あれは夢だったのかな?」
ジャージ姿で居間に降りてきた夏樹は、すでに起きていた銀子と鉢合わせた。
彼女は夏樹の顔色が悪いことに驚き、駆け寄ってきてくれる。
「なんか変な夢でも見たっすか?」
「昔、俺が京都にいたようないなかったような」
「いたんすか?」
「記憶にございません」
「なんすかそれ?」
「俺にもわかんないんだよ。俺は京都に行ったことなんてないはずなんだけど、京都での日々を鮮明に夢に見てさ。なんだか気持ち悪い」
「とりあえず、シャワーでも浴びてスッキリしたほうがいいっすよ。今、お湯沸かしてるっすけど、コーヒーかお茶でも飲むっすか?」
「お茶でお願いします」
「了解っす。んじゃ、用意しておくんで、さっぱりしてくるといいっすよ」
「はーい」
気怠い身体を引きずって風呂場に向かう。
「あ、誰か入ってる?」
シャワーの音が聞こえたので居間に戻ろうとしたとき、浴室の中から現れた人物がちょうどよく出てきてしまった。
「――きゃあ!」
「うわぁ、渋いきゃあって初めて聞いたわー。紀元前から生きてるおっさんの反応じゃねえよ」
先客は小梅――の父親であるサタンだった。
ラッキースケベをするつもりはないが、なにが悲しくておっさんの裸体を朝から拝まなきゃならないのか、と悲しくなる。
「いやぁ、すまんすまん。っていうか、顔色が悪いぞ。ほら、シャワー浴びるなら浴びちまえって」
「うっす」
サタンと入れ替わるように夏樹は浴室に入った。
おそらくサタンが使ったシャンプーかボディーソープなのだろう。とてもフローラルな香りがする。
夏樹は、シャンプーなどは気を遣わず、いつも母が使っているものを使用している。
最近では、小梅、銀子、ジャック、ナンシーと家族が増えたので、浴室にいろいろなものがたくさん置いてある。
目についたシャンプーを取り、髪を洗う。
「あ、これは小梅ちゃんのだ」
香りはあまり強くないが、後でドライヤーをかけるとさらっさらになるシャンプーだ。
数日前まで、世界を転々としていた小梅は、くたびれた衣服を身に着け、髪なども手入れをしていなかったが、由良家で生活するようになってから身だしなみにきちんと気を遣っている。
寝る前になると、銀子と母とナンシーと女子トークしながら化粧水やらでお肌の手入れをしている。
「にしても、困ったな。夢で見た円ちゃんと昨日会った安倍円くんは……同じ顔してたんだよなぁ。でも、あれだけ仲よかったら、忘れたりしないだろ。いやいや、そもそも安倍円が友達は死んだって言ってたんだし、やっぱり違うっしょ」
シャワーを浴びてさっぱりすると、下着を着替えて再びジャージを着る。
濡れた髪を簡単にドライヤーで乾かし、居間に戻ると、小梅、ジャック、ナンシーもいた。
「おはようございます」
「うむ。おはようじゃ」
「おはよう、友よ」
「おはようございます、夏樹くん」
それぞれ挨拶し、夏樹がいつもの場所に腰を下ろすと、銀子がお茶をくれた。
「ありがとう、銀子さん」
「いえいえ。自分もコーヒーを飲むんでついでっすよ。ところで、なんかあったんすか?」
お茶を飲んで一息ついた夏樹に、銀子が改めて尋ねてくる。
ひとりで悩んでいても仕方がないので、霊能関係の銀子なら何か知っているかもしれないと思い、聞いてみることにした。
「あのさ、安倍円って霊能力者知ってる?」
「もちっす。安倍さんちのやんちゃさんっすね」
夏樹が期待した通り、銀子は安倍円のことを知っているようだった。