作品タイトル不明
30「夢じゃね?」
――これは夢だ、と理解していた。
懐かしいはずだが、まるで身に覚えがない。
しかし、とてもリアルだった。
まるで自分が忘れてしまったことを、思い出すように追体験しているような、そんな感覚だった。
十歳ほどの夏樹が、同い年ほどの少女――いや、少女と見間違うほど可愛らしい少年とニコニコと笑顔を浮かべて話をしている。
「キミは夏樹ちゃん言うんか? ボクは円や」
「円ちゃん?」
「うーん、ちゃん付けはくすぐったいけどええよ。ボクの初めての友達やもん」
「ありがとう!」
黒髪を伸ばした快活そうな少年――夏樹と、亜麻色の髪をおかっぱにして、前髪をヘアピンで留めた円は神社の境内の日陰でアイスを食べていた。
けたたましい蝉の声を聞きながら、汗を拭ってアイスの甘さを楽しんでいた。
「ふぅん。夏樹ちゃんはお母さんのお仕事で京都に来たんかぁ」
「うん」
「……寂しいん?」
「え?」
「なんか、そんな顔しとったから」
「うーん」
夏樹はアイスを咥えて首を傾げた。
「寂しいっていう気持ちはあるかな。近所の人たちはいい人だし。でもなぁ」
「なんかあったん?」
「学校に嫌な奴がいるんだよ。あと、一緒にこなかったけど、家の中にもひとり」
「……複雑な学校とご家庭なんやねぇ」
「そうなんよぉ」
夏樹と円は、そんな他愛無い話をしながら境内を走り、近くの公園で遊び、お小遣いを握りしめてお店でお菓子を食べたりした。
一日の出来事ではない。
何日も夏樹は円と一緒に過ごしていたのだ。
親友と言っても過言ではない関係に見えた。
場面はまた変わる。
灰色の甚平を着た夏樹と、紺色の浴衣を着た円がお面を頭に置いて、手を繋いでお祭りを楽しんでいる姿に切り替わった。
会話はわからないが、屋台を巡り、金魚掬いをして、ひとつの綿飴を一緒に頬張る。
微笑ましい光景だった。
夏樹はとても円と一緒にいるのが楽しいのだろう。円も夏樹と同じように瞳を輝かせている。
再び場面が切り替わり、ふたりは階段にいた。
大きな花火が上がる中、かき氷を持ったふたりはお互いの色の変わった舌を見せ合い笑っている。
「ねえねえ、夏樹ちゃん」
「うん?」
「ボクとずっと一緒におってな」
「もちろんだよ!」
「ありがと! ボク、夏樹ちゃん大好きやから! ずっとずっと一緒やからね!」
「僕も円ちゃん大好きだよ! うん、約束!」
夏樹と円はそう言って、小指と小指を絡めた。
――そして、三度場面は変わり、鋭いなにかに斬り裂かれ大量の血を流して瞳の光を失っている夏樹と、そんな夏樹に縋りついて涙を流す円がいた。
そして、夢は終わった。
■
「इस पर विश्वास नहीं हो रहा!」
夢から覚めた夏樹は、大きな声と共に飛び起きた。
「うぉ、なになに!?」
隣で眠っていたサタンが叫び声にびっくりして、同じく飛び起きるのだった。