作品タイトル不明
28「生姜焼きは最高じゃね?」
「ただいまー!」
夏樹はスニーカーを脱いで家に上がると、小梅、銀子、ジャック、ナンシー、サタンが待っていてくれた。
夕食の時間を過ぎていたが、みんなが夏樹を待っていてくれていたのだ。
「ごめんごめん、想像以上に遅くなっちゃって」
「おう、帰ったか。うがい手洗いをしてくるんじゃぞ」
「はーい、小梅パパ」
「誰がダディじゃ!」
なんてやりとりをして笑い合うと、夏樹は言われた通りにうがい手洗いをして居間に戻ってくる。
「お帰りなさい、夏樹くん。じゃあ、ご飯にしましょう」
ナンシーがそう言うと、ジャックが手伝いのため立ち上がり、夏樹の肩をぽんと叩き「おかえり」と声をかけてから、配膳の準備を始める。
昭和の親父のように丸テーブルの前で新聞紙を広げていた銀子も、夏樹に「お帰りなさいっす」と言うと、ちらり、と隣に座って『SA・TA・N』と描かれたジョッキに注がれたビールを美味しそうに飲んでいる魔界の王を見た。
夏樹は見なかったことにして、自分の定位置につく。
「今夜は、生姜焼きです! アルフォンスさんにレシピを教わったので、さっそく作ってみました」
「おお!」
ナンシーが作ってくれた生姜焼きは、生姜のスパイシーな香りと、醤油の香ばしい香りが絶妙に混ざり合ったとても食欲を誘うものだった。
「――んじゃ、いただきますじゃ!」
「いただきまーす!」
小梅が音頭をとると、みんながそれぞれ食べはじめる。
夏樹はまず、玉ねぎと豆腐の味噌汁から口をつけた。
ほんのり甘い優しい玉ねぎの味と、優しい味噌が口に広がり幸せだ。
ここでつやつやのご飯を一口。
続いて、匂いだけでご飯が食べられそうな生姜焼きに箸を伸ばす。
肉はなんと牛肉だった。
程よい感じに脂身を持つ牛肉は、とても柔らかく味がよく滲みている。
口に含むと、肉そのものの美味しさはもちろん、生姜と醤油、そして味醂が丁寧に混ざり合った上品な味が口内を支配した。
「うまぁああああああああああああ! うまいよ、ナンシーさん!」
「うふふふ、ありがとう」
賞賛する夏樹以外は、一心不乱に生姜焼きと米を交互に口に運んでいた。
「米がたらん! おかわりじゃ!」
「あ、私もっす!」
「サタンさんも!」
「私もいただきたい!」
小梅たちがお米のおかわりを要求すると、ナンシーは笑顔で御櫃からお米をよそってくれる。
あっという間に食事の時間が終わった。
いつもなら会話が弾む由良家の食事だったが、今日はナンシーの生姜焼きの独壇場だった。
「ふうぅ、食べた食べた。――ところで、なんでサタンさんがいるの?」
ごちそうさまをして、小梅と銀子がナンシーと後片付けをしていると、そわそわとサタンが夏樹を見てきたので、いい加減にスルーできなくなって尋ねてみた。
すると彼はホッとした顔をする。
「反応が遅いよ! うさぎさんとサタンさんは構ってくれないと死んじゃうんだから!」
「どーでもいいわー!」
白スーツを着たおっさんのどこがうさぎさんなんだ、と夏樹は嘆息したのだった。