作品タイトル不明
25「また家庭訪問じゃね?」①
「じゃーねー、千手さん、祐介くん! カッパー! カッパー!」
「またね! 夏樹くん、千手さん! 妖怪娘最高!」
「……お前ら、挨拶くらいちゃんとしろよ。まあ、いいがな。じゃあな、河童勇者に特殊性癖勇者」
向島市に着いた夏樹たちは、一反木綿を見送ると、それぞれ帰路についた。
特に祐介と千手は再び海に落ちたのでずぶ濡れだ。
いくら春で暖かくなってきたとはいえ、夜になると冷えるので早く帰宅することとなった。
夏樹はふたりに家に来るように誘ったが、両者とも「もう今日は疲れた」と帰っていった。
まるで由良家に向かうと、まだイベントが残っているような言い草だった。
夏樹は、すっかり暗くなった向島市の歩き慣れた道をのんびり歩いている。
考えるのは、京都の霊能力者である安倍円のことだ。
少年なのに、少女のような美しい彼を一度見ていれば忘れたりしないだろう。
同じ名前の少年が円の大切な友達であり、鬼によって殺されたことを考えると、『なんとなく』引っ掛かりを覚えてしまうのだ。
夏樹は勇者になってから直感を大事にしている。
『なんとなく』でなにかを感じたことには素直に従ってきた。そのおかげで、命を救われたことは何度もあったのだ。
「……しかし、京都に関してはまったく記憶にございません」
小学校の修学旅行は腹痛――のふりをしてズル休みだった。確か、行き先は東京だった気がする。
あまり覚えていないが、面倒臭いクラスメイトが数人いたので修学旅行でまで顔を合わせたくないと思い、行かなかったのだ。
中学校の修学旅行は京都だと聞いているが、まだ行っていない。確か、秋のはずだ。
「――ていうか、俺が修学旅行で京都に行ったらライトノベルみたいに京都で大バトルの予感しかしないんだけど。……嫌だなぁ。誤解されているけど、俺は戦いそのものは得意じゃないんだよ」
強くはあるが得意ではない。それが、夏樹が自分の実力を把握した結論だった。
もちろん、神話に出てくるような神か魔を前にすれば、好奇心から戦いたくなる。異世界では、まるで楽しむことができなかったので、地球でつい楽しんでしまいそうになるのだ。
「……京都はなぁ、楽しみたいんだよなぁ。面倒臭いから酒呑童子を殺しに行くか。すさすさうっさいおっさんより強いってことはないっしょ。あー、でも安倍さん家が面倒臭い。とくに円くんもそうだけど、あの東雲とかいう胡散臭い奴はめっちゃ関わりたくない。絶対に、顔を合わせたらあれやこれやとなんか巻き込まれる予感しかしない」
と、思考はそこまでだった。
考えることが面倒臭くなったのだ。
「ま、なるようになるか。いやぁ、疲れた疲れた。お風呂入ってぐっすり眠って。明日はいい加減に学校に行かないとね」
「それはいいことです」
家の明かりが見えてきたので、身体をうーんと伸ばしながら早歩きをしようとし、聞き覚えのある声に振り返る。
「――あれ? 月読先生?」
「こんばんは。夏樹くん。いい夜ですね」
「えっと、どうしましたか?」
「プリントを届けにきたのと、――誰も怒りそうもないので、一応教師として説教しにきました」
「……あ、あははははは。お手柔らかにお願いします」
さすがに学校を休みすぎだし、暴れすぎた自覚がある夏樹だったので、素直に怒られることを受け入れるのだった。