作品タイトル不明
17「円の理由じゃね?」①
「いやさ、おじちゃんだって若い頃はすごかったんだぜ。ここだけの話、妖怪たちをまとめるのに、おじちゃんがどれだけ大暴れしてたと思ってるんだよ。ぬらぬら」
体育座りをして落ち込んでしまったぬらりひょんを無視して、夏樹たちは京都の霊能力者である安倍一門と再び対峙した。
安倍円は、肩を竦めて小馬鹿にしたような表情を浮かべた。
「とんだ茶番やったね。こら、熊。早よ立ち上がって、捕まえるもん捕まえたら京都に帰るで。ボクはこんなん場所いつまでもいとうないわ」
「…………」
「熊?」
「…………」
円が呼ぶが、熊崎から返事がなかった。
生きてはいるようだが、股間を抑えたまま小刻みに震え続けている。
「ちょい、たんま」
「あ、はい」
つい、夏樹は反射的に返事をしてしまったが、内心ではこいつらどうしよう、と考えていた。
その間に円は熊崎に駆け寄り、しゃがんで声を掛けている。
「ちょっと、熊……マジで動けへんの? 大丈夫なん? 腰、とんとんしよか?」
「…………」
夏樹たちには聞こえない声でつぶやく熊崎の声を拾った円はなんともいえない顔をして、立ち上がると、再び夏樹たちに向いた。
「熊は今日から女の子として生きるそうや」
「知るか!」
「キミのせいやろう! 責任とって、熊を娶って大事にしてやってえな!」
「お断りします! だいたい、責任ってなんだよ! お前らが妖怪さんを捕まえようとここに来なけりゃ、俺だってあんなおっさんの股間に勇者キックしないから!」
「熊は誤解されることが多いんけど、あれでも二十歳や」
「嘘っ!? 三十五歳くらいに見えるんですけど!?」
「喜んでええよ。年上女房や」
「勘弁してくれ!」
そんな言い合いをしながら夏樹が地面を蹴ると同時に、円が式を召喚する。
熊崎の巨体を優に超える鬼が金棒を持って現れ、夏樹に向かって振り下ろす。だが、虚空から引き抜いた魔剣常闇の剣によって、金棒ごと綺麗に両断され、内臓を地面にぶちまけて倒れた。
「やるやん」
「召喚士うぜぇ!」
余裕を見せる円に夏樹は魔剣を薙ぐ。
魔力による身体強化した夏樹の膂力によって振るわれた魔剣は、容易く円の胴体を両断した。
「あらら、キミ強すぎるやろ?」
間違いなく斬ったにも関わらず、生きていた。
殺すつもりで両断したはずが、洋服こそ斬れているのに、服の隙間から覗く白い肌に傷ひとつない。
「詰襟着とるってことはボクと変わらん学生のはずやのに、殺意もなにもなく殺しにくるなんて……ゾクゾクするほど面白い子や。キミが妖怪側やなければ、ぜひ安倍家に招きたかったけどね」
「別に俺は妖怪側じゃねえよ」
「あら? そうなん?」
「そうなん。でもさ、ぬらりひょんのおじいちゃんがわざわざ俺を里に招いて妖怪さんたちの生活を見せてくれて、頭を下げてくれたんだ。妖怪全部の味方をするつもりはないけど、遠野の妖怪に手を出すなら、覚悟しろ」
夏樹はあくまでも遠野の妖怪と敵対しないとぬらりひょんと約束しただけに過ぎない。
敵対すれば容赦のない夏樹ではあるが、敵対していない妖怪に自分から攻撃をするような性格はしていない。
好奇心という意味では、ちょっかいをかけるかもしれないが、あくまでも友好的に、だ。
自分から近づいてなにかされても、自分が悪いと思うだろう。
妖怪から何かをされても、家族や友人になにもなければ笑って済ますはずだ。
絶対的に妖怪の味方をするつもりはないが、安倍円のようにすべての妖怪を敵とするわけではない。
妖怪にもぬらりひょんのように話のできる妖怪もいるだろう。だが、彼の敵対する京都の妖怪のように戦わなければならない妖怪もいるはずだ。
そのことに関して、とやかく言うつもりはない。
――しかし、妖怪という一括りで全てを敵にしてしまうのは悲しいことだ。
かつて夏樹は、異世界に勇者として召喚され利用された。その結果、異世界人を恨み、敵対する魔族が悪ではないと知っても帰還のために殺した。
後悔してはいないし、同じ境遇になれば再び繰り返すだろう。
だからこそ、偉そうなことは言えないのだが、円にはもっと選択肢があって良いはずだ。
京都の、人に害をなす妖怪と戦っているのは良いことだと思う。感謝すべきだ。
だが、遠野の妖怪まで敵視して、敵を増やすのはナンセンスだ。
とりあえず、仲間になってほしいと交渉してみるところから始めても良い。力づくを行うのなら、交渉が失敗してからでも良いはずだ。
(――なんて綺麗事は言えるけど、なんか言ったら揉める気がするから言わないようにしよう。でも、ひとつだけ気になることがある)
「あのさ」
「ん?」
「なんで、あんたは妖怪と口にする度に、そんなに憎しみを込めるんだ?」
夏樹は大きなお世話だと思いながらも尋ねてみた。
すると、円は鼻で笑う。
「そんなん、ボクが妖怪を大嫌いやからに決まっているやろ。妖怪どもは、ボクの友達を殺しよったんや。だから絶対に許さへん」
「あー」
「名前しか知らんから、ご家族に訃報も届けることができん。それはあんまりやろ。ボクが初めて好きになった大切な友達を――奪った妖怪は絶対に殺す。殺し尽くしたる」
円の事情を聞き、彼の行動理由は理解した。
納得できた。
すべての妖怪を敵にしても仕方がない。
「なんか、悪かったね」
「別にキミは妖怪やないからええよ」
「でも、俺のここでの行動は変わらない。あんたにはあんたの理由がちゃんとあるようだから、俺にできることは――痛みを感じないように一撃で殺してやることだけだ」