作品タイトル不明
13「勇者VS式使いじゃね」②
「ご丁寧にどうも。じゃあ、潰れてろ」
祐介から魔力が吹き荒れると、安倍円の真下から地面が隆起し、彼を呑み込んだ。
「――ふう。殺しはしないけど、大人しくしていてほしい。僕は、人間を殺すことに抵抗がないんだ」
異世界で、罪悪感や嫌悪感がなくなるほど命を奪うことを強要された祐介は、魔族だけではなく、モンスター、人間をすべて平等に殺した。
祐介を召喚した人間たちに都合の悪い生き物を全て、機械的に殺したのだ。
現代社会で、軽々と人を殺すことはしないが、する気になれば何も躊躇わずに殺すことができるだろう。
そんな自分が嫌いであり、反吐が出そうだった。
「鬼さん……今、解放を」
「がぁあああああああああああああああああ!」
「――っ、く」
手を差し伸べた祐介の腕は、牙を生やす鬼によって食いつかれた。
痛みこそ我慢できたが、腕の肉を噛みちぎられ、ぐちゃぐちゃと咀嚼する鬼に、祐介は一歩引いてしまう。
「……こんなことをさせられて」
「そりゃ酷い誤解やね」
土に呑み込まれていたはずの円の声が響くと同時に、土が内側から爆ぜた。
「いやぁ、土まみれやん。酷い目にあったわぁ」
髪や服についた土埃を払いながら、円が嫌な笑みを浮かべて出てきた。
「厄介だったわぁ。でも、魔力で操ったもんなら、維持できなくさせることくらい朝飯まえやよ。キミが全力で殺す気だったらまた違ったんやろうけど、甘いなぁ。そのせいで、小鬼程度に腕噛みちぎられているやん」
「……使役をした結果、これかい?」
祐介が怒りを込めて尋ねると、円は心底驚いた顔をした。
「キミ……本気で言ってるん? 鬼が人を喰らうなんてあたりまえやん。その小鬼は、若い子を好んで食ってる鬼やったんやで。最近の鬼らしいんけど、二十人ぐらい犠牲が出とったはずやで」
「え?」
「ただ殺すんだけやと、被害者が可哀想やろ? だから、使い潰したろうかと思ったんよ。もちろん、飲まず食わずで死ぬまで妖怪を殺してもらうはずやったけど……勝手に餌を与えんでくれるかなぁ?」
「そ、そんな」
祐介は動揺してしまった。
彼も馬鹿ではない。知識では、人を襲う妖怪もいることは知っている。
魔族だって人を殺すし、天使だって必要があれば殺すだろう。
日本の神々だって、荒ぶれば災害として人々を苦しめることもあった。
――それでも、ぬらりひょんや猫又をはじめ、実際に接してみたことで忘れてしまっていたのだ。妖怪が、親しい隣人ではなく、時と場合によっては人に牙を剥く存在である事を。
無論、すべての妖怪が人間の脅威になるわけではない。
それは理解している。しているのだが、祐介は異世界に限るが人間に絶望していた。もともとの趣味嗜好を置いても、人間には同情もなにもできなかった。
地球に戻ってきても、一度抱いた人間への嫌悪は完全に消えず、そのせいだろうか。妖怪との出会いを大きく喜んだ。喜びすぎた。
「妖怪に夢を見るなんて馬鹿やねぇ。そんなに夢を見たいんなら、眠るとええよ」
同様に動きを止めてしまった祐介に、円が肉薄して鳩尾に拳を叩き込む。
「――かはっ」
肺から空気が漏れ、呼吸が止まる。
円はさらに、祐介の顔を殴り、腹を蹴り、喉を締め上げる。
「キミ、人を殺すんに躊躇いないって言ってたんね? 偶然やね、ボクもなんも抵抗あらへんよ」
締め落とすつもりなのか、それとも本気で殺すつもりなのか、円の手にはこれでもかと言うほど力が込められている。
祐介が抵抗し、彼の顔を何発か殴るも、彼は唇を切り、鼻から血を流しながらも、薄ら笑いを浮かべたまま手から力を抜かなかった。
「――停マレ」
「――あら?」
熊崎を倒した千手の魔眼が円の動きを止めた。
「げほっごほっ、ごほっ、ごほっ」
「あらら、逃げられてもうた」
解放された祐介が、首を抑えて何度も咳き込む。
唾液を流し、目には涙を浮かべ、酸素を求めて大きく深呼吸を続ける。
「……安倍さん家は過激だな。一般人が中途半端に足を突っ込んできた青少年を躊躇いなく殺そうとするなよ」
「ボクにとっては、妖怪を守ろうとする愚かもんは敵やからね。殺してもええんよ」
「よくねえから。ま、そのまましばらくじっとしておきな。あとで、拘束したら解放してやるから」
「それには及ばんよ。――ボクを干渉する魔力を禁ずる、早よせいやクソッタレ」
円の呟きと同時に「ぱんっ」と乾いた音が響き、彼が動きを取り戻した。
「……やっぱり京都の連中とは相性が悪いぜ」
千手は苦戦する予感をして、冷や汗を流した。