作品タイトル不明
間話「平和なさまたん家じゃね?」
「まもんまもん! 聞いてください、サマエル様。今度、亜子さんと映画館に行くことになったんでまもんまもん。これはデートですね! スーツを新調しないといけませんので、一日お休みをくださいまもんまもん!」
「……休みはいいんだけど、デートって市街地の方に出るってことか?」
「まもんまもん!」
「それは肯定でいいのか? さすがにそれはまずくないだろうか?」
「まも!?」
午前中の仕事を終えたサマエルとマモンは、一度家に戻って簡単な食事にしていた。
今日はいただいた素麺を使って、野菜たっぷりの冷やし中華風にしてある。
胡麻の甘味が引き立つマモン特性タレが実に野菜と合っていた。
素麺をちゅるちゅる啜りながら、サマエルはマモンに言う。
「真面目なことを言うと、外見が三十過ぎたおっさんが、リアル女子高生とデートしていたら、いろいろまずいだろう」
「……ま、まもん。それは盲点でした。歳の差を考えるなら、紀元前から生きてまもんですし」
「それはわかる。私も、生きている時間は長いが、精神的にはピチピチの十代だからな」
「――まもんっ」
「……説明されなくてもわかるぞ、今のは失笑だろ! 何度も言うがまもんまもんは便利な言葉じゃないんだよ!」
サマエルの指摘通り、マモンは時間こそ気が遠くなるほど生きているが、外見は三十過ぎのちょいワルイケオジだ。そんなマモンと、少し控えめな印象を受ける真門亜子が町を歩いていれば、最悪職質だ。
サマエルもそうだが、マモンも西洋人の顔をしている。
親子や親戚と言い張るのも難しい。
「しかし、困りまもんまもん。映画館に行けないのであれば、俺の考えた『きゃっ、映画館が暗いから手と手が触れ合っちゃった』大作戦ができないのでまもんまもん」
「……お前……中学生かよ? いや、今時の中学生だってもっとぐいぐい行くわ! なんなら、暗闇の中でちゅーくらいするわ!」
「それはさすがに偏見でまもんまもん」
冷やし中華風素麺を食べ終えたマモンが麦茶を飲み干し、頭に手ぬぐいを巻く。
いつも通りの、スーツ姿に割烹着を装備し、足元は泥に汚れた長靴だ。
サマエル的にはそろそろスーツを脱げと言いたい。
「ごちそうさん。暖かくなってきたから素麺もなかなかだな」
「今度、動画で流しそうめんをやりまもん」
「……それ、面白いか?」
「二人羽織でやりまもんまもん!」
「いーやーだー! 絶対、お前に箸を鼻に突っ込まれる未来しか見えない!」
「――っ、サマエル様! まさか、未来視ができるのでまもんまもん!?」
「未来視などなくたって、誰だって予想できるわ!」
そんな掛け合いをしている時だった。
「――っ」
「――っ」
ふたりの魔族が、同時に動きを止めた。
「マモン。気付いたか?」
「まもんまもん。もちろんです。映画館ではなくDVDを借りてくればお家デートということで問題解決するのではないでしょうか? まもんまもん」
「その話じゃねーよ! 今、由良夏樹と愉快な仲間たちが近くまで来ただろ! あと、なんか東京の方にトールの気配がするんだが!」
「なにをおっしゃいます、さまたん。トールなら、朝から秋葉原にいるとSNSに書き込んでいるではありませんか。まもんまもん」
「……お前、魔族のくせに北欧神話の神とSNSでつながってんじゃねーよ!」
――青森のさまたん家はいつも通り平和だった。