作品タイトル不明
8「招かれざる客じゃね?」①
遠野のとある場所にある妖怪たちの村で、湯上りの千手、祐介、猫又が並んで歩いていた。
海に落ちて濡れてしまった千手と祐介は、それぞれ甚平と浴衣を借りて身に着けている。
無難に甚平を選んだ千手に対し、浴衣を選んだ祐介は帯がうまく結べず猫又さんに整えてもらってデレデレしている。そんな猫又さんもセーラー服から浴衣姿だ。
「いいお風呂だった。一度はおいで、遠野の妖怪たちの村」
「そんな旅行の案内みたいなノリで言うなよ」
「一見さんはお断りだにゃーん」
猫又さんは、ふたりをぬらりひょんの屋敷に案内せず、近くの茶屋に寄ってお茶と団子を注文する。
千手と祐介も、あえて自分たちからぬらりひょんの屋敷に行こうとは言わなかった。
もともとぬらりひょんは夏樹を目的に向島市に来ていた。
自分たちは、くっついてきただけの部外者であり、ふたりの邪魔をするつもりはなかった。
「ろくろっ首さんの淹れてくれるお茶は美味しいなぁ!」
「……お前は本当にブレねえな」
「ここ何十年と、こんなに妖怪が大好きな子は久しぶりだにゃーん」
「……意外と長生きだな、猫又さん」
「そりゃ妖怪だもんにゃーん」
「確かに」
ろくろっ首に話しかけている祐介を放置し、千手と猫又さんは他愛無い話をしながらお茶で喉を潤す。
千手も千手で、何気ない会話をしながら密かに情報収集をしていた。
「それにしても、のどかな村だな。妖怪っていうともっとおっかないもんだと思っていたぜ」
「最近の世間はわからんにゃーん。妖怪はいないにゃん?」
「いるにはいるんだが、何方かと言えば海外から入ってきた悪魔や、恨みつらみを抱いた悪霊、人間の執着が生んだ生き霊、時々やべえのが魔族くらいだな。妖怪の存在は河童くらいしか俺は知らねえな」
「悪魔は嫌いにゃん。奴らに住処を奪われた妖怪もいるにゃんよ」
「……なるほど。妖怪も大変だ」
「そうだにゃぁ、大変なんだにゃーん」
千手も霊能力者としての仕事はもちろん、裏家業でも、力が通じるものと戦ってきた。
しかし、妖怪と出会ったことは数えるほどしかない。
関西方面に行くと、妖怪勢力が力を持つので悪魔などは少ないらしいが、千手はそちらには詳しくなかった。
「なるほど、妖怪たちは悪魔が嫌いと。うんうん。ちなみに俺は異世界人が死ぬほど嫌いです! あ、一回死んでますけどね!」
「……まあ、お前さんが異世界人嫌いなのはわかるけどな」
ろくろっ首さんとお話しできて満足した祐介がテーブルに戻ってきた。
彼の異世界人嫌いは相応の理由があるので理解できる。きっと夏樹がこの場にいれば同意していただろう。
「千手さんは嫌いなものってないんですか?」
「俺だって嫌いなもんくらいある」
「それは?」
「俺は人間が大っ嫌いだ! 特に、七森家の人間がな!」
「うわぁ。千手さんも大概、過去がブラックなんですよねぇ。なんなんでしょうね、このまともな過去がない男連中って」
「俺が知るか」
夏樹は幼馴染みに振り回されていたし、蓮も力のせいで不遇な日々だった。千手も愛人の子であった事から虐げられ、祐介も異世界を過去とすればお世辞にも良い扱いを受けていない。征四郎も婚約者に捨てられるなど、なかなかひどい過去を持っている。
「人間は大変なんだにゃーん。猫又は猫らしく、毎日のんびり生きるんだにゃーん」
「そりゃいいにゃーん」
「俺もそうしたいですにゃーん」
三人でにゃーん、にゃーん、と鳴いていると、千手たちの首筋にぴりっとした痺れのような何かが走った。
「――お」
「――ん?」
「にゃにゃにゃ?」
三人が同時に立ち上がる。
「……よう、猫又さんよ。聞きたいんだが、今日、俺たちの他に人間が――それも霊能力者が来る予定はあるかい?」
「ないにゃん。……この霊力……招かれざる客にゃん」
「千手さん」
「おう。世話になった分、働くとしようか。人間の相手は人間が一番だ。妖怪がわざわざ人間を相手にする価値なんてねえ」
千手と祐介は、猫又にぬらりひょんと夏樹に霊能力者が来たことを知らせてくれと頼み、村の入り口に走った。