軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7「めっちゃ平和な村じゃね?」②

ぬらりひょんの家は、意外にも武家屋敷だった。

手入れのされている庭に、大きな池があって鯉と一緒に河童が泳いでいた。

とりあえず河童さんに手を振っていると、座敷に通される。

「お茶と羊羹です。自家製ですので、お口に合えばいいのですが」

「ありがとうございます。羊羹ってお家で作れるんですね、いただきます!」

十八歳ほどのおかっぱ頭の可愛らしい少女が、お茶と一緒に羊羹を出してくれた。

お礼を言って、さっそくいただく。

羊羹は甘さが控えめであったが、今まで口にした羊羹とは比べものにならないほど美味しかった。

優しい味というべきか、しつこくなく、絶妙にお茶に合うのがたまらない。きっと作った妖怪が優しい人なんだろうと思う。

「とっても美味しいです!」

「ふふ。ありがとうございます」

少女は笑顔を浮かべて礼を言うと、夏樹とぬらりひょんにお辞儀をしてから下がっていった。

「ちなみに、今の子は座敷童でい」

「……座敷童さんと会っちゃった!? 俺って幸せ!」

「なっちゃんはいい子だねぇ。おじさん、なっちゃんみたいな人間は大好きだぜ」

「褒めても聖剣と魔剣しか出ないよ!」

「出さないでね!」

夏樹とぬらりひょんは、お茶を飲んで、ふう、と一息ついた。

のんびりした空気が広がる。

少し耳を澄ませば、妖怪たちの楽しそうな声が聞こえてくる。

「なあ、なっちゃん。この村を少しだけど見てくれたよな? どうだったかい?」

「みんな平和そうに暮らしているね」

「そうだろう? 昔は、もっと日本中におじちゃんたちはいたんだが、自然がなくなり、視える人間の数も減り、俺たちは少しずつ居場所をなくしていった。それに関しては、時代の流れだから文句を言うつもりはねえんだ」

「文句言ってもいいと思うんだけどなぁ」

「おじちゃんたち妖怪は、時代に合わせて変化していくからその辺はいいのさ。今は、ひっそり遠野で暮らす妖怪。先日、なっちゃんが助けた河童のように昔からの土地から離れない妖怪。新たな土地を探して転々とする妖怪。京都勢のように妖怪だけのシマを作って独自の世界を築いている妖怪たちもいる」

「うん」

ぬらりひょんは、穏やかな笑みを深くして夏樹に尋ねた。

「本当はもっと時間をかけたかったんだが、なっちゃんは中学生ってことで時間がねえ。だけど、ここに来て妖怪が人と変わらず生活をしているって知ってくれたかい?」

「うん。妖怪にも家族がいて、友人がいて、どんな妖怪でも関係なく楽しく、仲良く、そして優しく暮らしている。とてもいいことだと思う」

「あんがとな」

すべての妖怪が遠野の妖怪たちみたいに平和的ではないだろう。

いや、遠野の妖怪だって、感じ取れる力はかなり強い者もいる。

なによりも妖怪の総大将と謳われるぬらりひょんの力を、夏樹は把握できていないのだ。

人間に善人と悪人がいるように、妖怪にも良い妖怪と悪い妖怪がいるのだろう。

しかし、それは、妖怪も人間も同じだと夏樹には思えた。

「なあ、なっちゃん。おじちゃんがどうしてなっちゃんたちを遠野に連れてきたかわかるかい?」

「敵対しないように、かな?」

「正解だ」

ぬらりひょんは、姿勢を正すと畳に手を着いて頭を下げた。

「――由良夏樹殿。我々遠野の妖怪は人の社会の陰でひっそり暮らしているだけで満足です。どうか敵対しないよう、お願い申し上げます」

夏樹は、ぬらりひょんが急に現れ、遠野に自分たちを連れてきた本当の理由を察した。

良くも悪くも夏樹は、マモンや素盞嗚尊と戦い、勝利した。

そんな人間が、妖怪にとってどのような存在になり得るのか、ぬらりひょんは見極めようとしたのだ。

そして、おそらくではあるが、良い感情を持ってくれたと信じたい。

ならば、夏樹の答えは決まっている。

「俺は遠野の妖怪さんたちと敵対しません。お約束します」

真摯な対応に、夏樹も真剣に返事をした。

「――由良殿、かたじけない。本当に、かたじけない」

安堵に震えるぬらりひょんは、ゆっくり顔を上げて夏樹の顔を見ると、もう一度深々と頭を下げたのだった。