作品タイトル不明
9「招かれざる客じゃね?」②
「やだやだ。遠野ってどんなところかと思ったんやけど、しけたところやねえ」
「京都妖怪どもと比べると華がないな。だが、それでいい。妖怪は人間に使役される生き物だ。京都妖怪のように主張が激しい奴らは好かん」
「それでも京妖怪は強いんやけどねえ」
軽口を叩きながら、小柄で細身の女性と見間違うような美しい少年と、まるで熊のような剛毛を腕に生やす巨漢の男が、幾重にも張り巡らされた村の結界をすり抜けて勝手に入ってきていた。
巨漢の男はジーンズとTシャツというラフな格好だが、逞しい肉体に対し衣服のサイズが小さいようで、これでもかというほどぱっつんぱっつんだ。
少年は、亜麻色の髪を肩まで伸ばした優男だ。
涼しい表情を浮かべているが、彼の瞳には目に映る妖怪を嫌悪する感情が見えている。
巨漢の男に対し、少年はワンサイズ大きいTシャツと、くるぶしまでのスラックス、足元はスニーカーという出立だ。
妖怪の村に来るというよりは、祝日に友人と遊びに出かけるような雰囲気だった。
「というか、ボクはこの田舎臭い空気の方があかんわ」
「京都も特別都会じゃないだろうに」
「別に、京都が都会なんて言っとらんけど。まあ、ええわ。さっさと式神にできそうな妖怪を捕まえて、はよ京都に帰ろ」
「お前はそうすればいい。俺は強い妖怪とガチ喧嘩をしたいんだよ!」
「はいはい。勝手にして」
暑苦しい、と少年は肩を竦め、巨漢の男は妖怪たちの視線を気にせず村を勝手に歩き始める。
妖怪たちの怯えた視線が集まると、ふんっ、と鼻を鳴らした。
「もしかすると期待はずれかもしれねえぞ。どいつもこいつも俺たちが霊能力者だとわかってビビってやがる」
「熊みたいな巨漢がおったら誰でもビビるわ」
「誰が熊だ! 褒めるな!」
「……褒めとらんし」
少年はため息をつく。
ひとりで遠野に来るはずが、京都駅で面倒臭い男に見つかってしまい、なんやかんやと同行されてしまった。しかも、新幹線代は少年持ちだ。
実に運がない。
「ボクとしては、強い式神になりそうな妖怪がいればそれでええんやけど。できるだけ、殺す力に特化した能力があるとええな」
「安倍一門は大変だな! 酒呑童子どもが活気付き、九尾どもは隠れてこそこそしてる。そりゃ、ストレスも溜まる溜まる」
「現在進行形でボクのストレスが溜まりまくりや。まあ、ええけど。ボクとしては、鬼どもを殺すための手駒が手に入ればええんよ。京妖怪どもは、ボクらに怯えて出てこーへんからね。駒を探すだけでも骨が折れるわ」
「まったく、安倍一門は軟弱な。駒がいなければ、自分を鍛えれば良いのだ。見ろ、俺の美しい肉体を! 肉体は愛せば愛するだけ返事をくれる!」
「いや、毛むくじゃらやん。腕が見えへんから」
そんな軽口を叩き合いながら、ふたりは妖怪たちを値踏みしていく。
残念ながら、侵入者である自分たちの前に出てくる気概を持つ妖怪はいないらしい。
「――おや。なんで、こんなんところに人間がおるの?」
少年が走ってくる青年ふたりを見て、怪訝そうな顔をした。
「しかも霊能力者と……もうひとりはなんだ? 魔力か? 悪魔ではないようだが、おもしろい」
興味を覚えたふたりは、足を止めた。
「お前らどこのもんだぁあああああああああああああああ! 妖怪さんは俺のもんだぞぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「いや、お前のもんじゃねえだろ。面倒臭え、やっぱりイベントが起こりやがった。おい、あんたら。どこの誰だか知らねえが、回れ右して、帰りやがれ。今なら、見逃してやる。ほら、しっ、しっ」
いきなり激昂している青年――佐渡祐介と、心底面倒臭そうにしている青年――七森千手に、京都からやってきたふたりの霊能力者は怪訝な顔をした。
「なんなん、こいつら?」