軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

間話「トールさんとAKIHABARAじゃね?」

雷神トールは、メイド喫茶が開く前に用事を済ませておくことにした。

父オーディンからは、カードゲームのボックスを買えたら買ってきてほしいと言われたが、どこで売っているのかわからず途方にくれていた。

他にも義弟ロキからは、スマホゲームのキャラクターフィギュアとプラモデルを複数購入してほしいと頼まれている。

母と妻たちからも日本の家電がほしいと言われていた。

「さて、困った。どこにいけば目的の物が買えるのだろうか? 見渡せば、人々が店に入っているのだから、なんとかなるかもしれないが……悩ましい」

初めての秋葉原にトールは戸惑っていた。

動画等で見た光景とは違い、人も多く、店も多い。

足早に歩く人々が、巨漢の外国人を興味深そうに見ても、声をかけるようなことはしない。

いくら日本人が親切と言われているとはいえ、いきなり外国人に声をかけることができる猛者もなかなかいないのだ。

「……困ったな。東京在住の知り合いが何人かいるので呼びたいんだが、皆働いているのだから迷惑をかけるのも悩ましい」

「そこの御仁。なにやら、お困りですかな?」

「む」

背後から声をかけられ、トールが振り返ると、そこにはジーンズとネルシャツ、眼鏡をかけた少々小太りの二十歳ほどの青年がいた。

「日本語で困ったとおっしゃっていたので、某でもお話が通じると思い、不躾ながら背後から声をかけさせていただいた」

「おう、ジャパニーズ・オタークぅ。――ごほん。失礼した。我が名はトール。偉大な神オーディンの息子! 現在、迷子中だ!」

「これはこれは、随分とキャラ作りを丁寧にしておられる。嫌いではないですぞ。そのお召し物も、まるで神話から出てきたように本格的ですな! おっと、失礼いたした。某は早乙女雅と申します」

雷神トールと、青年――早乙女雅が力強く握手を交わした。

皮の鎧を身につけたトールの姿は、秋葉原でなければ職質レベルの本格派だった。

そんなトールに声をかけた青年もなかなか肝が据わっている。

「さて、トール殿は如何様なご用事で秋葉原にいらしたのですかな?」

「実は、家族に買い物を頼まれてな。私はメイド喫茶に行きたい」

「ふむ。では、買い物を先に済ませてしまいましょう。メイド喫茶は、最近では数を減らしていますが、某の行きつけのメイド喫茶があるので、そちらにご案内いたしますぞ」

「……さすが日本人。親切だ。いや、失礼した。雅、君が親切なのだな。ありがとう。世話になる」

「いえいえ。困った時はお互い様ですとも」

その後、雅に案内されてトールは秋葉原を満喫した。

オーディンの希望したカードは買えなかったが、代わりに雅の知り合いの店員から他のカードをこっそり出してもらったのだ。

ロキの欲しがっていたフィギュアは無事に買え、母と妻たちの要望に応えられそうな家電も手に入れることに成功した。

日本の家電量販店の店員はとても親切だ、とトールは感動した。

そして、お昼にはメイド喫茶に行き、オムライスにハートマークを描いてもらうという定番なことをし、メイドさんと写真撮影もしてトールは大喜びだ。

お礼ということで雅に食事を奢ろうとしたが、逆に奢られてしまった。

そして、夕方。

別れの時がやってきた。

「雅……我が友よ。今日は最高な日だった。このような遠い異国で雅のような友人と出会うことができたことに、心からの感謝を。ありがとう」

「某も楽しませていただきました。まさか、海外の方とこうして一緒に秋葉原を満喫できるとは……友と呼んでくれて嬉しい限りです」

ふたりは固く握手をする。

「できることなら、友情の酒を酌み交わしたかったが、探し人を見つけたのでな。会いにいかなければならぬ。だが、雅とここで別れてしまうのは実に惜しい。どうだろうか? 後日、我が国に招待したい」

「おおっ、それは嬉しいですな! 約束ですぞ!」

トールと雅は、ハグをして連絡先を交換すると、再会を約束した。

「それではな、雅! また会おう!」

「トール殿、お元気で! 再会を楽しみにしています!」

――後日、トールにアースガルズに招かれ、オーディンをはじめ北欧の神々と会うことになるとは、この時、雅は夢にも思っていなかった。

――そして、まさか、雅が夏樹たちと今後行動を共にすることになる事も、この時はまだ予想もできなかった。