作品タイトル不明
5「ビッグネームな妖怪じゃね?」
「そんじゃ、なっちゃんとゆーちゃんとせんちゃんの三人で遠野行くってことで決まりだな!」
「なーんか、距離の縮め方がえぐい」
「よっしゃー!」
「誰が、せんちゃんだよ。クソジジィ!」
坊ちゃん呼びから急に馴れ馴れしくなったぬらりひょんだが、ノリノリの祐介はさておき、千手がご不満だ。
夏樹としては、どこかぬらりひょんが憎めない性格をしているので、ツッコミこそしても、嫌ではない。
「でもさ、どうやって遠野まで行くの? 飛ぶ?」
夏樹の疑問に、ぬらりひょんは、慌てなさんなと制す。
「まず、普通は飛べねえのよ。いくらおじちゃんが妖怪の中の妖怪だからって、飛ぶのは無理なんだな。そこで、一反木綿さーん!」
「へーい!」
陽気な男性の声と共に、空から一枚の大きな布が落ちてきた。
「……なにこれ」
「妖怪の中でも、きっとトップテンに入る人気者の一反木綿さんだぜ!」
「いや、これ、ただの布じゃん。正方形の大きな布じゃん。なんか違う」
「……それは言わねえ約束だろ」
「そんな約束してないから!」
一反木綿というと、なんとなく細長い存在を想像してしまったのだが、実際に現れたのは白い正方形の布だ。
顔もなにもなく、どこから声を出しているのかもわからない。
ある意味、さすが妖怪だと感心できる。
「……物語に出てくる絨毯じゃないんだから」
「兄ちゃん兄ちゃん、それは言いっこなしだぜ」
「乗ったらずぼっていきそうで怖いなぁ」
「平気だって! 踏ん張るから!」
「どこで踏ん張るんだよ!」
「兄ちゃん、細かいことを気にしていたら禿げるぜぃ! とりあえず、他の兄ちゃんたちみたいに乗りな!」
「……って、祐介くんと千手さんがもう乗ってるし! 瞳キラキラさせんなよぉ!」
一反木綿の真ん中に、胡坐をかくぬらりひょんと、お行儀よく正座する祐介と千手に、夏樹は嘆息する。
「夏樹くん……よく考えるんだ。これは最高のファンタジーだよ。異世界に一反木綿さんなんていなかったからね」
「そりゃね! 妖怪がいなかったもんね!」
「由良! 男の子なら一反木綿さんに乗れることを光栄に思わないと駄目だ!」
「千手さんって時々バグるよね!? なんで、ふたりとも午前中からそんなにテンション高いの!?」
もう一度、大きく嘆息すると、夏樹は地面を軽く蹴って宙に浮いた。
「いや、俺は飛べるからいいよ。なんか安定してなさそうで怖いし」
「兄ちゃんも飛べるんかい! いいねぇ。だけど、俺っちのほうが早いぜ。俺っちは新幹線よりも早いぜ!」
「ほほーん。なんか三人が振り落とされるような未来しか見えないけど、新幹線よりもねぇ。でも、きっと俺の方が早いよ。俺は神速だよ」
「おいおい、神様気取りかい? あ、俺っちは韋駄天に勝ったからね!」
「神様気取りじゃないよ。神殺し様気取りだよ」
「へぇ」
「ふぅん」
夏樹と、乗客を乗せた一反木綿が空高く浮かび上がっていく。
相変わらず一反木綿のどこに顔があるのかわからないが、なんとなく目と目が合い、火花が散った気がした。
「そこまで言うなら、勝負しようか、兄ちゃん!」
「乗った!」
ぬらりひょんたちが「ちょ、ま」と何かを言おうとしているようだが、夏樹と一反木綿の耳には届かない。
次の瞬間、魔力を練り上げた夏樹と、妖力を高めた一反木綿が空を舞台にした勝負を始めた。
――ちなみに、ぬらりひょんたちは、岩手近海で海に落ちたが気づいてもらえず、半魚人さんたちに回収された。
また、夏樹と一反木綿の勝負は引き分けだった。